未完了のままとなっている動作の遂行

ABCモデルの基本形

強い外傷性の出来事のため身体の記憶として、未だに適切な身体的反応を完了せぬままになっている身体的衝動や動きを完遂することによって、過去のトラウマを過去のものとし、未来に希望の持てる現在に至ることが可能です。

しかし遂行条件があります。まずは、被支援者が、過去の外傷体験の想起に伴う神経・生理学的な過覚醒や麻痺反応から、「今・ここ」が、安全で安心できる場所であると身体的自己がしっかりと体感でき、かつそのことによって神経・生理学的反応が、「ほどよい覚醒」状態に戻れることが必要です。また、万が一、支援の場でも過覚醒や麻痺的反応が起きたとしても、支援者と被支援者の間で、いつでも「今・ここ」が安全かつ安心できるということを実感・自覚できる具体的なリソースを沢山共有できていることが必要です。

ホロニカル・アプローチABCモデルでいえば、トラウマ体験の想起による過覚醒や麻痺反応といった視野狭窄的状態(A点)から、いつでもB点への移行を可能とする具体的な手段を支援者と被支援者が共有していることです。A点への固着が頑固な場合ほど、B点移行後も、すぐにA点に立ち戻るだけに、根気よく、粘り強くB点への移行を促すことを可能とする数々のリソースを持っていることが肝要です。

もう一つの条件があります。それはA点とB点の行ったり・来たりを、ほどよい覚醒状態で、ほどよい心的距離をもって観察することができる適切な観察主体C点の確立です。A点とB点という相矛盾する対象を同時に二重に体感できる適切な観察主体の確立です。

被支援者自身が、B点移行への“こころ”の内外のリソースを沢山もっており、かつ適切なC点を自ら樹立している人ほど、過去の外傷体験を過去のものとして、現在に過去を統合することが数回の行ったり・来たりで可能です。しかしB点移行のためのリソースの極めて貧弱な人や、適切な観察主体そのものが脆弱だったり、観察主体自体が非合理的な信念を内在化してしまっている場合には、A点固着から解放されるのに年単位を要する場合もあります。しかし、そうした人にあっても、被支援者の生きている環境が安全で安心でき、適切な共同研究的協働関係にある伴走者がいれば、A点固着から解放は可能です