トラウマの扱い方(12):切り離されていた体験を自分のものとする

過去の過酷な体験を、淡々とした口調で語る人たちがいます。あまりに機械的な語りは、聞いている人の方に強烈な感情が湧き上がってきます。

こうした現象は、語り手が、外傷体験時に随伴した絶望感や恐怖感を自己の体験から切り離し、絶望感や恐怖感が聞き手に分裂・排除されることによって起きると考えられます。語り手は、強烈な絶望感や恐怖感を自らの体験から切り離すことによって、絶望感と恐怖感に圧倒されることから身を守っているわけです。

しかし切り離したとはいえ、語り手はいつまでも過去の外傷体験との直面を回避したり、解離させて生きていくため、それはそれで生きづらい人生となります。

こうした生きづらさを克服するためには、過去の外傷体験が今・現在の生き方を支配している状態から解放することです。

この作業を完遂するそのためには、2つの重要な条件があります。

一つ目は、過去の苛烈な感情体験に直面化しても圧倒されることなく耐えることのできる観察主体の樹立です。

二つ目の条件は、過去の外傷体験の想起を共にする伴走的証人の存在です。伴走的証人が傍らにいることが、「今・ここ」が安全で安心できる場所と実感できる限り、絶望感や恐怖感や無力感をあるがままに抱え込み感情の浄化作業が可能になるのです。