共感と巻き込まれを俯瞰する

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共感の本質>
心理社会的支援の現場では、被支援者への共感が大切だと語られます。しかし、ホロニカル心理学の立場から捉えるならば、共感とは、被支援者の感情に同調したり、同じ気持ちになったりすることではありません。

支援者が被支援者の苦悩に触れるとき、支援者自身の内側にも、さまざまな感情や身体感覚、思考、衝動が立ち顕れてきます。共感において重要なのは、被支援者の体験を完全に理解したと思い込むことではなく、支援者が被支援者の体験に近づこうとするなかで支援者自身が自らの揺れや反応を丁寧に観察しているうちに、支援者と被支援者の関係が、共鳴しあいだし、鏡映しあいだし、あたかも相互包摂関係になる現象が創発されることといえます。共感はするものではなく、場の中で生まれてくるものといえます。

<巻き込まれの構造と危うさ>
被支援者の苦悩に過度に同調すると、支援者は被支援者と心理的に一体化し、両者の違いを見失うことがあります。その結果、支援者が状況を落ち着いて捉えるための視点を失い、被支援者自身が苦悩を俯瞰するための余白も狭めてしまう可能性があります。

ホロニカル心理学では、「巻き込まれ」を、支援者個人の未熟さや弱さに還元するのではなく、被支援者と支援者との関係のなかで生じる一つの出来事として捉えます。そこには、被支援者の苦悩だけでなく、それに呼応する支援者の内的反応や、両者を取り巻く組織・制度・社会的環境など、多層多次元にわたる要因が絡み合っています。

<巻き込まれた自己を俯瞰する>
実際の支援では、被支援者の苦悩にまったく巻き込まれずにいることは困難です。むしろ、「巻き込まれてはいけない」と自らの揺れを否定し、抑え込もうとするほど、巻き込まれていることに気づきにくくなる場合があります。

大切なのは、巻き込まれない支援者になることではなく、巻き込まれている自己に気づき、その自己を俯瞰できるようになることです。自分はいま何を感じ、どのような思いに突き動かされ、被支援者との関係のなかでどのように揺れているのか。その動きを無批判・無評価・無解釈に観察することによって、支援者は巻き込まれた状態から少しずつ距離を取り、関係全体を捉え直すことができます。

ここで鍵となるのが、ホロニカル心理学でいう「不一致の一致」の姿勢です。それは、支援者と被支援者との違いや、関係のなかに生じる揺れや葛藤を排除することではありません。互いに一致しきれない存在であることを認めながら、その不一致を含んだまま、ともに生きやすい関係を創り直していこうとする態度です。

<ケース検討・スーパービジョン・自己分析>
巻き込まれた自己を俯瞰するためには、支援者個人の努力だけでなく、それを支える仕組みが必要です。

ケースカンファレンスやケース検討は、他者の視点を通して、自分だけでは気づきにくい反応や関係のパターンを捉え直す機会となります。スーパービジョンは、支援者の内的な揺れを安全に扱いながら、被支援者との関係や、その背景にある多層多次元の状況を理解していく専門的な場です。

また、支援者自身が継続的に自己分析を行うことは、自らの感情や価値観、過去の体験が、現在の支援関係にどのように作用しているのかを見つめる基盤となります。ホロニカル心理学では、ホロニカル論を学びながら、自らの体験と支援関係を省察していく営みを「教育的自己分析」と呼びます。

<ホロニカルな支援関係の形成>
共感を深めることと、自己を俯瞰することは、相反するものではありません。被支援者の苦悩に心を開きながら、同時に、そこで揺れている自己と両者の関係全体を見つめる。この二つの働きが相即するとき、支援者は被支援者との関係を、よりホロニカルに捉えられるようになります。

支援者の揺れは、単に排除すべきものではありません。それは、被支援者とのあいだで何が起きているのかを知らせる、大切な手がかりにもなります。その揺れに気づき、俯瞰し、必要に応じて他者と検討することによって、巻き込まれは、支援関係を見直し、より生きやすい関係を共創していくための契機へと開かれていくと考えられるのです。