どこかの、誰かが織った壁掛け

 

心理相談室こころの受付の壁面に古い織物が掛けてあります(HPトップページに受付の写真があります)。

この織物は、不安や期待の気持ちを抱きつつ受付票を書いている姿を10数年以上見てきています。この織物がいつ・どこで、誰によって作られたものなのか全く分かりません。デザインや色や織りの巧みさ、どこかすっとなじむ感じが好きで一目惚れしました。購入した時にはたしか、タイかミャンマーかラオスか、どこかあのあたりの少数民族の、古い民族衣装の一部(スカートの裾の部分、縦横違えて飾っています)ということを聞いた覚えはあります。どこか、遠くの、名もない女の人が体で覚えている複雑な模様を織りあげたものが、いくつかの人の手と時を経てここにあり、多くの人の不安を和らげている・・・。織った人はそんなこと考えてもいなかったでしょうに。ただただ一生懸命に織っていただけだろうなと思います。

以前、イスタンブールのグランドバザール内の偶然入ったキリム屋のお兄さんが、もっと安くしてという私の要求に、「祈りつつ魂込めて織ったものを、そんな安い値段では売りたくない」とぴしゃり。自分はなんだか浅ましい人間だなあと恥ずかしくなったことがありました。
少しずつ、少しずつ、ただ織っていくだけで、きっとよこしまなことも、いいことしてやろうとかも何も考えていないであろうどこかの誰かを、こころから尊敬します。
(定森露子)
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