多層多次元
ホロニカル心理学では、“こころ”は多層性および多次元性を獲得しながら多層多次元な自己を自己組織化させていくと考えています。
多層とは、意識の表層から無意識といわれる深層に向かって、“こころ”が層構造をもつということです。C・G・ユングは、フロイトが明らかにしたコンプレックスの奥には、もっと深い無意識の層に人類のすべてが類型的イメージを抱く集合的無意識の層があるとしましたが、こうした考え方もこころの多層性を認めた例といえます。
日本の臨床心理学を牽引してきた河合隼雄は、表層意識の下には深層意識が広がること、その深層意識にあっては、イメージの活性化する領域(井筒俊彦のM領域)があり、さらにその下層に言語アラヤ識があり、このアラヤ識が、ユングのいう「元型」に当たることを心理療法家としても重視してきたことを明らかにしています。
通常の意識水準より下層にある無意識層のコンプレックスが活性化すると、適切な意識水準での判断が混乱させられたり歪んだりすることがあります。
自己の底に向かって、個人的無意識層、家族的無意識層、文化・社会的無意識層、民族的無意識層、東洋的無意識層、人類的無意識層、ほ乳類的無意識層……と多層構造をもっていると思われます。より深い層ほど意識化することが難しくなり、主体への影響は無意識的となります。
“こころ”の多次元とは、意識の主体と外的対象関係が多次元の心的構造をもつということです。
ある子ども「C」がいるとします。この時、「C」は、独自の個人的次元(前述の「層」をもつ)以外に、家族の一員としての次元、学校の一生徒としての次元、地域社会の一員としての次元、日本人としての次元、世界の次元、霊性の次元など、幾多の次元性を有しながら存在していると考えられます。
自己は、水平方向に多次元な空間性をもって無限の世界に広がって存在しようとするとともに、垂直方向に向かって多層にわたる時間性をもって無限に収束しながら存在しています。
水平と垂直が交差する「今・ここ」に自己が存在しているわけです。
しかもこうした主観性や特殊性を特徴とする多層多次元な意識現象は、宇宙、銀河系、太陽系、地球、自然、人工物、身体的自己、器官、組織、分子、原子、粒子、量子といった客観性や一般性を特徴とする物理現象のもつ多層多次元と2面性的同一の関係(絶対矛盾的自己同一)にあるとホロニカル論的に把握されます。自己には、意識的と物理的現象の影響が表裏一体になって多層多次元に織り込まれていると考えられるのです。