「親密な他者」の内在化:適切な心理社会的支援のプロセス

人は社会的存在です。お互いに「親密な他者」となるような社会的な場に共に生きあってこそ、はじめて社会的存在として生きている価値を実感できるのです。自分に関心を向けてくれる他者の存在や、自分が関心を向ける他者が存在することが、社会的存在として生きるためには必要なのです。

こうした理由から、生きづらさを抱え孤立していく人たちを支えようとする支援者には「親密な他者」となる覚悟が求められます。

世間では他者の支援を受ける前に、親に代表される「保護者」がまずは適切な保護的立場となることを期待します。またそうあるべきだということを強く求める社会的風潮があります。しかしこの考え方をそのまま単純に突き詰めていってしまうと、保護者がなんらかの経済的困窮や精神的疾患や障害をもっていたとしても、すべては保護者の責任であって、周囲の責任ではないという考えたにも結びついてしまいます。特に地縁・血縁社会の衰退は、自己と他者の関係の疎遠化・無縁化を加速化させ、他人の問題は「私とは関係がない問題」に変質すらしてきているのです。しかしこうした他者との関係の変質は、社会で孤立する人たちを増加させるばかりか、孤立化する人たちが、一層社会を恐れ、社会や他者への不信感や警戒心を高めるだけの悲劇的結果を招いているのが現実です。

また親のように適切な身近な保護的立場にあったとしても、子どもの成長とともに、いずれ「親密な他者」となって独立自存の関係を築いていくことが大切です。親離れ・子離れのテーマです。さもなければ、いつまでも特定の保護者だけに依存する人をつくりだし、依存された保護者も死に切れなくなります。老々介護問や年金暮らしの「80・50問題(高齢者がひきこもりの大人になった子どもをかかえ込む)」、孤独死などは現実化してきているのです。

大切なことは、親だけに限らず、“こころ”の中に「適切な保護的存在が内在化」され、家族以外の人との関係において、お互いに「親密な他者」となるような共生社会を目指すことでしょう。

適切な保護的存在を内在化しながら、かつての適切な保護的存在への依存から多数の依存できる他者をもてるようになり、また必要な時には、他者の適切な依存対象となることが真の社会的自立といえるのです。

支援の現場の現実を考慮すると、「親密な他者」にも次のような段階があると考えられます。
①重要な保護的存在・・・・家族・親族などいわゆる身内
②重要な身近な保護的他者・・身近なキーパーソン。地縁・血縁関係者、または、その代替機能をもった特定の心理・社会的支援者
③重要な友人・・・・・・・・親友、キーパソン以外の信頼できる心理・社会的支援者
④重要な知人・・・・・・・・親密な知人、一般的で一過性の心理・社会的支援者
⑤ほどよい友人・・・・・・・仲間
⑥ほどよい知人・・・・・・・知り合い
⑦ほどよい一般人・・・・・・信頼できる他人
⑧他人・・・・・・・・・・・信頼できる社会
⑨世界・・・・・・・・・・・死にゆく世界

最終的には、自己と他者の関係においては、自己が他者に映され、他者に自己が映される関係になることが大切です。
※①に近づくほど、濃密な支援が必要であり、そうした関係づくりが公費によって保障される必要があります。
※②~③にかけては、継続的な心理・社会的支援サービスが公的あるは社会的に保障されることが必要です。
※④以降は公費によるサポートの必要度が下がってきます。