事例検討のもつ意味

心理社会的支援において、ひとつの事例を時間をかけて検討することの意味は、個別の事例から帰納的に一般的法則を導き出すことにあるのではなく、また逆に、一般的法則を演繹的に事例に応用するためでもないと考えられます。

心理社会的支援における個別事例の研究の意味は、帰納的理解と演繹的理解がせめぎ合うところで、一つの事例の個別性と全体性とのせめぎ合いの物語をより深めていくことにあります。

自己は、個性的存在として生きようとして、一般的存在として生きることと対立しながら生きようとします。それに対して、世界は、自己をその全体性の中に一般化して取り込もうと自己に死を迫ります。

こうした個別性と全体性の一瞬・一瞬のせめぎ合いの中に、自己と世界の関係をめぐる多層多次元にわたる矛盾が凝縮されているだけに、事例研究を通して、自己と世界がより一致していく道を発見・創造していくことに意味があると考えられるのです。

 

※カテゴリー「事例的物語」は、ホロニカル・アプローチによる実際の事例をいくつか組み合わせ、個人が特定できないような物語として構成されています。