観察主体の発達段階とポジションへの注目

ホロニカル心理学では、「物事や出来事の理解の差異は、観察主体と観察対象の組み合わせの差異による」と包括的に捉えることによって、物事や出来事の統合的理解を促進しますが、観察主体という時、「観察主体の発達段階の差異」と「観察主体のポジションの差異」に注目します。

※詳しくは、下記の参考文献を参照ください。

「観察主体の発達段階の差異」(自己意識の発達)とは、観察主体が自己の誕生とともに「ゼロ・ポイント(空)」「混沌」「幻想」「他律」「自律」「IT(それ)」というように発達段階別に移行していくことを指します。観察主体の発達段階の差異は、観察主体と観察対象の関係に強い影響を与えます。最終段階の「IT(それ」は、出発点の「ゼロ・ポイント(空)」と表裏一体の関係にある「絶対的観察主体」のことです。これまで「神」「仏」「科学の目」とも呼ばれてきています。ホロニカル心理学では、絶対的観察主体とすべての観察対象は絶対矛盾的自己同一にあると考えます。観察主体と観察対象のいずれもが、もともと「ゼロ・ポイント(空)」を起点としていることを実感・自覚する主体が「絶対的観察主体(IT:それ)」です。「ゼロ・ポイント(空)」では実感・自覚の主体は不在ですが、「IT(それ)」段階では無分別の実感・自覚の主体が働くと考えています。

「観察主体のポジションの差異」とは、観察主体の意識の立場が、「私」「私たち」「ホロニカル主体(理)」「IT(それ)」のいずれにあるのか、あるいはポジションの融合度合いについて注目するということです。4つのポジションは、観察主体の発達が未分化な段階では融合的ですが、発達に伴い自己が深化し複雑化していくにつれて、次第に機能分化し、ポジションの移動も融通無礙になっていきます。

観察主体のポジションの差異は、語りの「主語」の特徴に注目すると区別ができます。「私は・・・」という立場か、「家族(○○会社は・・・」という立場か、「普通○○では・・・」という立場か、「客観的には・・・」という立場かの差異は語りの主語の差異となって顕在化します。なお、語りのポジションが融合的な場合は、語りの前後や社会的文脈の中から聞き手が推測的に聞き分けていく必要があります。またポジションの確認を図っていかないと、聞き違いも起きやすくなります。

対話においては、「語り手」と「聞き手」の観察主体のポジションの異同の整理や明確化を怠るとコミュニケーション不全が起きやすくなるのです。例えば、「この子はとても怒っているんです」と激怒する保護者の語りは、実際に子どもが怒った内容を保護者が代弁的に語っているのか、それとも保護者の子どもに対する投影的同一視による怒りなのかは、聴き手が確かめていかないことには曖昧なままといえるのです。

<参考文献>
定森恭司(2015).ホロニカル・セラピー:内的世界と外的世界を共に扱う統合的アプローチ.遠見書房.
定森恭司・定森露子(2019).ホロニカル・アプローチ:統合的アプローチによる心理・社会的支援.遠見書房.