心的症状や心的問題の扱い方

観察主体が“こころ”の内・外の現象について、いかなるものを観察対象として選択し識別するかは、内我(内的現実主体)による直接体験の直覚及び外我が内在化しているホロニカル主体(理)の識別基準の影響によります。しかしながら観察主体が何らの事象を観察対象として識別した途端、識別前までの観察主体と観察対象の一体に伴う、あるがままの体験は破れ、自己と世界は一気に不一致となり対立する関係になります。しかも自己と世界の出あい不一致・一致は、瞬間・瞬間、非連続的に展開していくため、観察主体が何かを観察対象とする度に、その都度、重々無尽に識別された多層多次元な世界が、観察主体によって再構成されながら立ち顕れてくることになります。

再構成は意識的に行われることもありますが、ほとんどの場合、半ば自動的に行われています。ホロニカル主体(理)による識別基準は、所属する社会の文化が使用する言語の働きが深く影響しています。それは、物の名であったり、記号であったり、概念であったり、感情を意味する言葉であったりします。

観察主体と観察対象とが一致し、言語化前のあるがままの生々しい体験と、観察主体が自己と世界を区分させ、対立させた途端、意識的あるいは半ば自動的に多層多次元にわたる森羅万象の世界が自己によって再構成的に創り出されているわけです。

識別され認識された世界とは、本来は観察主体と観察対象の区分なき無境界一体だったものが、多の集まりであるかのようなものとして「再構成された世界」といえるのです。本来、無境界的で「一」でもあるにも関わらず、「あたかも部分的な要素のように振る舞うものとして識別されたもの」をホロニカル心理学では、「ホロニカル的存在」と概念化しています。ホロニカル的存在とは、ミクロからマクロにわたるまで、本来、一なるものが多として識別されある部分的要素ということになります。そしてあらゆるホロニカル的存在は、お互いを照らし合いながら、他の多を包摂し、また他の多に包摂されるという相互縁起的包摂関係(ホロニカル関係)を形成しながら重々無尽の世界となります。

ところが、識別された特定のホロニカル的存在が、観察主体によって再構成されるときに、他の多のホロニカル的存在とホロニカル関係を持てなくなる時があります。すると自己にとって自己と世界の関係はホロニカル関係を失い、自己と世界の不一致に悩むことになります。自己と世界の不一致は、心的症状や心的問題の源となります。「心的症状や心的問題とは、ある特定のホロニカル存在が他のホロニカル的存在との自発自展的なホロニカル的関係の自己組織化から阻害された現象」と言い換えられるわけです。そして頑固な心的症状や心的問題を形成している時ほど、“こころ”の多層多次元にわたって観察主体と観察対象のホロニカル関係の自己組織化が阻害されています。しかも頑固な心的症状や心的問題が形成されている時ほど、観察主体と観察対象の関係が多層多次元にわたってホロニカ関係の組織化を失うばかりか、固定的な悪循環パターンをひたすら繰り返しています。

幼少期に体罰、威圧、否定などのパワーによって支配してきた父親に抱いた恐怖感(陰のaというホロニカル的存在)が、学齢期においては、先輩ややんちゃっぽい子への苦手意識(陰のaを包摂する陰のbという非ホロニカル存在)という問題となり、そのうち社会人になってからは上司や先輩との対人関係のコンプレックス(陰のabを含む陰性のcというホロニカル的存在)と反社会的世界への親和性となり、そのうち反転して社会全般への恐怖心(陰のabcを含むd)となり、夜に悪夢(abcdを含むにe)にうなされるようになり、不眠症状(absdeを含むf)となり、こうした日々の連続が強い自己否定感(abcdefを含むg)となり、破壊衝動か攻撃的エネルギーが反転して自殺念慮(abcdefgを含むh)を抱き、医師によって境界例的人格障害を伴った鬱状態(abcdefghを含むi)の診断されるまでに至るのです。頑固な心的症状や心的問題などは、こうして“こころ”の多層多次元にわたる強迫的な悪循環パターンを構成していくことになるのです。

ホロニカル関係の組織化が阻害されている時とは、特定のホロニカル的存在が、他のホロニカル的存在同士とのホロニカル的関係化のプロセスから切り離されていたり、否認されていたり、抑圧されていたりする状態となります。いかなるホロニカル的存在を、切り離し、否認し、抑圧するかを決定しているのは、気分ごとに形成される自己照合システム同士によるネットワーク化の影響が考えられます。強い外傷体験(陰のホロニカル的存在の代表)などは、自己照合システム同士のホロニカル関係の秩序に取り込むことができず、自己照合ネットワーク化から疎隔化される現象と考えられるのです。背景には、何らかの神経生理学的なネットワーク化における反射的メカニズムが関与していると想定されます。しかし、いくら疎隔化したとはいえ、他のホロニカル的存在とのホロニカル的関係を失った特定のホロニカル的存在は、現実主体(内我・外我)にとっては、自己違和的なものとして体感されます。また、隔離、否認、抑圧などには、現実主体が内在化しているホロニカル主体(理)の作用も深く関与しています。

疎隔化された自己違和的ホロニカル的存在に、もし観察主体が執着してしまうと、他のホロニカル的存在とのホロニカル的関係の自己組織化は、ますます阻害されていきます。心理社会的支援の場においては、自己違和的な不一致感は、多層多次元の“こころ”のどこかの次元やどこかの層における“ひっかかり感”として被支援者自身や支援者によって感知されます。モヤモヤ感、ソワソワ感、イライラ感、不安感、緊張感、行き詰まり感、切迫感・・・などの自己違和的な“ひっかかり感”が不一致感の顕れです。被支援者と支援者が、被支援者とその親との関係について対話中・・・仕事のことについて対話中・・・自己像をめぐる対話の中・・・過去の出来事の回想中など、多層多次元にわたるテーマについて対話中に起きてくる被支援者と支援者の関係性の中に起きている“ノイズのようなゆらぎ”が不一致が布置した瞬間といえます。

こうした “ノイズのようなゆらぎ”を精妙に感知し、被支援者と支援者が共創的に、特定のホロニカル的存在が他のホロニカル的存在とのホロニカル関係を回復したり新たなホロニカル的関係を自己組織化できる道を発見・創造するのがホロニカル・アプローチの特徴です。