ホロニカル心理用語集

ホロニカル心理用語集

ホロニカル心理学は、心的症状や心的問題などの生きづらさを抱える人たちへの心的支援としてホロニカル・アプローチを研究していく中で、これまでの心理学概念のパラダイムから新しいパラダイムへのシフトへの必要性から自然に形成されてきました。
ここでは、ホロニカル心理学やホロニカル・アプローチで用いられる主要概念について説明します。

ホロニカル心理学で用いられる重要概念

1.こころの仕組みを理解する時
に用いられる主な概念
※ホロニカル心理学の心的構造論にあたります。

2.こころのあらわれ方を理解する時
に用いられる主な概念
※ホロニカル心理学の心的現象論にあたります。

3.発達の理解のための概念
※ホロニカル心理学の発達論にあたります。

4.ホロニカル・アプローチで活用される主な概念
※ホロニカル心理学の実戦論にあたります。

5.基礎資料

創造と破壊のエネルギー

「破壊と創造のエネルギー」は、ホロニカル心理学における重要な概念で、すべての存在とその変化を司るエネルギーのことです。このエネルギーは、一切合切が分化・多様化しながら自発的に展開する作用を指し、生成と消滅を司ります。こうしたエネルギーは、精神分析では、「エス,es」と呼ばれています。しかし、ジークムント・フロイト(1856- 1939)の「エス,es」というより、フロイトの前に「エス,es」を発見し、フロイト理論に多大な影響を与えた医師のゲオルグ・グロデック(1866-1934)の「エス,es」に近く、生命エネルギーそのものに近い概念です。ホロニカル心理学では、「エス,es」を精神活動に限定せず、もっと精神現象や物理現象の破壊と創造を司るエネルギーとして捉え直しています。

「破壊と創造のエネルギー」は、新たな瞬間を創造するために一切合切を破壊し、新たな瞬間・瞬間を非連続的に不断なく創造しています。この非連続的な瞬間・瞬間の捉え方は、華厳仏教の「挙体生起」や道元の「有時」の捉え方と相似的です。

自己にも、生(創造)と死(破壊)に向かうような相対立する激しいエネルギーが内包されています。自己は、世界から創造され、世界に働きかけながら、自己の自己組織化をめぐる生・死の戦いを生命として繰り返しているわけです。

物理現象の世界では、現代物理学者のカプラは、素粒子が独立した実在として存在するのではなく、相互作用という不可分なネットワークの部分として存在すると述べています。この相互作用は粒子の交換であり、エネルギーの相が絶え間なく変わる中で、粒子が生成と消滅を繰り返します。これは、華厳の「すべての宝玉同士がお互いに無限に映しあっている」と説く、「因陀羅網の比喩」の描く光の荘厳の破壊と創造のエネルギーに基づく世界観と酷似しています。

ホロニカル心理学では、「破壊と創造のエネルギー」の働きと、すべてを総覧し統合する働きを持った「IT(それ)」の働きの不一致と一致が、自己と世界の不一致・一致による重々無尽の世界を生成消滅させていると考えています。絶対無(空)が、絶対無自身を鏡のように映しとろうとして自己否定しようとするところに、絶対有の分化・多様化という生成生滅を司る「破壊と創造のエネルギー」の作用と、分化・多様化する世界を、「IT(それ)」の全総覧的統合的作用によって統一作用が生まれたという仮説をもっています。「創造と破壊もエネルギー」の作用と「IT(それ)」の全総覧的統合的作用が、一即多・多即一からなる世界を創造していると考えているわけです。

「破壊と創造のエネルギー」の働きが無限の多の生成消滅を司り、「IT(それ)」の全総覧的全一的な働きがすべてを統合することによって、自己からすれば、自己と世界の不一致・一致の直接体験という実在世界が展開することになるわけです。

しかも、自己にとっては自己と世界の出あいによる一致・不一致の直接体験は、多層多次元に識別されていく重々無尽の世界体験と、我の意識(現実主体の意識)が無となって自己と世界の一致する無境界体験が、相矛盾しながら同一にあると考えられます。

重々無尽に展開する森羅万象の一つである自己も、究極的には、無と有の生成・消滅を繰り返しているのです。森羅万象は、哲学でいう「絶対無」(西田幾多郎)、や「意識と存在のゼロ・ポイント」(井筒俊彦)、仏教でいう「空」と矛盾する関係にあります。ゼロ・ポイントから、ほんの少し自存・自立しようという揺らぎの意志をもった「何か」が、瞬間、ゼロ・ポイントにおける絶対的一の楽園が破綻させ、ゼロ・ポイントと「何か」は不一致の関係になったと考えられます。人間の自己、そうした「何か」の意志を内在化しかつ意識する存在として、自己組織化されてきたといえます。こうして、自己は、自己をも包摂する根源的には全体的世界と一との関係を希求しつつも、個人(部分)として自己の自存・自立を求めて自己を自己組織化させることになります。

「破壊と創造のエネルギー」は、「IT(それ)」ともに、生命と宇宙の本質的なダイナミズムを創り出している作用を意味する概念です。

ホロニカル心理学が考える“こころ”とは、「破壊と創造のエネルギー」と「IT(それ)」が相矛盾しながらも同一に働くフィールド(場)と考えています。このフィールドにおいて、すべてを呑み込み、かつ産み出す、「破壊と創造のエネルギー」と、すべてを統合する「IT(それ)」という理が、非一非異に働くため、一切合切に生死の無常の世界が展開しているわけです。

※ゲオルグ・グロデックの「エス」は、「私はエスによって生きられている」と、生命が成立するうえでの根本的なエネルギーのようなものとしました。グロディックは、フロイトのいう「自我」は、エスの表現形式とします。しかし、これに対して、フロイトは「エス」は、あくまで心的装置のひとつであり、自我にとって否定的意味をもたらしたため、「エス」の概念を借用したフロイトとグロディックの間には、決定的な溝が生まれたようです。ホロニカル心理学では、“こころ”には、グロディックのいう「エス」の働きがあるため分化・発展を自己組織化すると考えています。