トラウマの扱い方(6):ホロニカル心理学での捉え方

ホロニカル心理学では、トラウマとは、強烈な陰性の気分を随伴する断片的な出来事を、内我(内的現実主体)が直覚する直接体験に上手く統合できず、かつ、しばしば強烈な陰性の気分が外我(外的現実主体)に直接的に侵入し、外我もその出来事を自らが内在化しているホロニカル主体(理)によって意味づけられない断片的な体験と考えます。

社会一般で語られるトラウマのイメージは、過去に受けたストレスの影響が、現在の生活にも何らかの生きづらさをもたらしているというときに広く使用されています。しかし、『精神疾患の診断・統計マニュアル』など精神医学で示されるトラウマは、外傷後ストレス障害(Posttraumatic Stress Disorder: PTSD)の診断基準にあるように、生死に関わるような、あるいは持続的な虐待といった極めて「外傷性」の意味づけが強いものに限定されています。精神医学のいうトラウマと社会一般でいうトラウマとの間には、かなりの温度差があるわけです。トラウマをどのように捉えるかは、社会的文脈や識別基準による差異が伴うのです。地震・津波などの予測不可能だった突然の自然災害や、見知らぬ人による犯罪や、交通事故や長期にわたる虐待などは、外傷性と社会的合意を得られます。しかし、夫婦が激しい暴力や罵声・否定を繰り返し、かつお互いが相手の加害者性と自分の被害者性を主張しあっているときに、果たしてどこまでが外傷性といえるかは極めて怪しくなるわけです。

トラウマをどのように扱うかは、そこには価値の基準を抜きにできず、倫理的、道徳的、思想、哲学的対立・葛藤を含むという現実を無視できないのです。

実践的問題としては、単発の外傷性の場合は、トラウマ・セラピーが有効です。しかし夫婦の対立が継続中の時は、夫婦関係の見直しが必要で、もし他方のみを被害者としてトラウマ・セラピーを実施することは、他方を刺激し、夫婦関係の破綻を招く可能性を高めるのです。それだけに支援者が、問題を外傷性のトラウマという被害者的観点からトラウマ・セラピーを実施するときには、その意味づけ自体が人生の歩み方に大きな影響を与えることを、しっかり吟味しながら支援を勧めることが必要になります。