悩みの種は心の専門家

いつからだったのだろう。“こころ”の悩みの解決の主体が、専門家の手に渡ってしまったのは?

いつからだったのだろう。以前に比較して、地域包括ケアシステムの構築の理念やそれを可能とする各種社会福祉制度が充実してきたにも関わらず、多様な社会制度が、逆にソフトな不自由を創り出してしまうようになってしまったのは?

いつからだったのだろう。生きづらさや言葉にしにくい違和感を説明したり分析する専門用語は増えたにも関わらず、問題解決の道がより混迷してしまったのは?

いつからだったのだろう。多様な心理社会的支援に関する理論や支援法が生まれたにも関わらず、いっそう心理社会的支援をめぐって混乱するようになったのは?

いつからだったのだろう。精神科医、心療内科医や臨床心理士など、“こころ”の専門家が増加したにも関わらず、治療対象として診断される人と専門家ばかりが増加するようになったのは?

いつからだったのだろう。エビデンスの重要性が叫ばれ、エビデンスのあるとされている治療が専門家の手によってなされるようになったにも関わらず、当事者自身や当事者を知る周辺の人からみると、当事者自身や周辺の人が望むような変容はごく一部の人に限られ、むしろそれ以上に一層悪化したようにしか見えなくなった人ばかりが増加するようになった気がするのは?

いつからだったのだろう。家庭、地域、学校、企業や団体が、“こころ”の問題解決を専門家ばかりに委ねるようになってしまったのは?

いつからだったのだろう。人と人のお互い様関係が失われ、無縁化してしまったのは?

次の文章には目を通した方がよいと思われます。

「・・・・精神疾患により医療機関にかかっている患者数は、近年大幅に増加しており、平成26年は392万人、平成29年では400万人を超えています。・・・厚生労働省が実施している患者調査によれば、日本の気分障害患者数は1996年には43.3万人、1999年には44.1万人とほぼ横ばいでしたが、2002年には71.1万人、2005年には92.4万人、2008年には104.1万人と、著しく増加しています。」「最近うつ病が増えた」と強調されることがありますが、数字の解釈には注意が必要です。うつ病は検査などで明確に診断できる疾患ではないため、診断基準が少し変わることによって、診断される患者数にかなりの差がでてきます。最近の増加が本当の増加なのか、うつ病であるという判断方法の違いの影響が大きいのかは、十分注意する必要があるでしょう。」

上記の文章は、実は、厚生労働省の「知ることからはじめよう、みんなのメンタルヘルス」というサイトからの引用です。

どうやら、ここ何十年間の社会の歩みの影の問題が露出しはじめ、抜本的解決が必要になっているように思われます。

それは、まず“こころ”の悩みに関する問題解決の主体を、悩みを抱える当事者自身に戻すことから始まるのではないでしょうか。心理社会的な問題解決の主体は、当事者であって、「心理に関する支援を要する者に心理的支援を行っている主治医」(公認師法より)でもなければ、臨床心理士、公認心理師、精神福祉士、社会福祉士等々でもありません。しかし、資格制度の充実化が、あたかも生きづらさといった心理社会的問題までもが医療モデル化され病理化されていく社会的風潮には十二分に留意をする必要があります。

そのためには、“こころ”の悩みを抱える当事者が問題解決の主体になれるような心理社会的支援が必要ということであり、そのような心理社会的支援を可能とする場の再整備が必要ということではないでしょうか。あらゆる心理社会的支援の理論や技法(対応方法を含む)は、当事者の問題解決能力の向上に寄与するものとして統合的に活用されなければなりません。

支援は、特定の理論や技法を使う専門家に寄与するものであってならないのです。