ホロニカル・アプローチの統合性について

大鹿村矢立木

これまでの心理社会的支援に伴う理論・技法は、診察室、面接室、実験室などそれぞれ異なる場で、それぞれ異なる対象に対して、異なる時代・文化を背景に、異なる人間観によって培われきてきました。各々の理論や技法を培ってきたバックボーンやパラダイムが、基本的に異なっているのです。そのため、同じ理論や技法でも、支援の場が異なると、それまで有効と思われていた理論や技法も、場違いのものとなり有効性を失ってしまいます。

その上、様々な理論や技法の統合化は簡単ではありません。一見、同じような室内ゲームでもチェスと将棋では、まったく駒の動かし方のルールも戦略も異なるようなものだからです。

そこで多くの実践家は、異なる理論や技法の共通因子を模索しながら対応するか、折衷的または多元論的に既存の各理論や各技法を活用してきました。多くの支援者は、一派一理論に拘ることなく、その場その場でいろいろな創意工夫を図っているのが実態です。

時代の変化やローカルな要因が複雑に絡み合う生活現場に近い支援の現場では、当事者の抱える生きづらに対して、臨機応変な有効な対応を求められ続けているのです。構造化された非日常的場である診察室、面接室、実験室で培われた既存の理論や技法では、非構造的で複雑な要因が錯綜する日常生活に近いところでの支援現場では、そのままの応用では対応できず、当事者や現場の実態に合わせて、その都度、その都度、新しい理論や技法を創発するしかないという現実があるのです。

しかも臨機応援とはいえ、効果的な実践のためには、理論化と裏付けが重要です。大切なことは、実践即理論即倫理の探究ということです。心理社会的支援においては、ステレオタイプ化した権威や理論がもっとも実践の弊害になるといえるのです。

実は、ホロニカル・アプローチにおける統合性とは、まさに実践から生まれた統合性であって、既存の理論や技法の統合を目指した理論や技法とは全く異なります。むしろ既存の理論や技法の安易な統合化は危険と考えます。先に指摘したように、既存の理論や技法の基盤には、異なるパラダイムがあるからです。パラダイムの差異を無視しての統合化は、文明の衝突のような混乱と危機を招きかねません。

ホロニカル・アプローチでは、既存の理論や技法とパラダイムの差異に留意しつつ、有効な支援の道を真摯かつ丁寧に模索する姿勢を取り続けます。その結果が、「既存のさまざまな理論や技法の差異も、観察主体と観察対象の組み合わせの差異として統合的に理解が可能」という立場です。既存の心理社会的支援に関する理論や技法は、多層多次元な“こころ”の顕れのうち、ある特定の局面を扱っている限りは有効であっても、いずれの理論や技法も唯一ではないと考えられるのです。むしろ扱う局面の差異を明確にしながら、既存の理論や技法を機械的に当てはめるのではなく、参照にしつつも現場に即した支援を発見・創造していく姿勢をとるのです。