ホロニカル関係(12):ミクロとマクロのホロニカル関係

「ミクロ的に見れば混沌としているが、マクロ的に見れば秩序のようなものができあがっている、そういう状態がカオスの縁の特徴」(今田高俊,2001.複雑系を考える:自己組織化とはなにかⅡ.ミネルヴァ書房.p77)や、「システム論の知見からは、短期目標を担当し迅速に変化する制御変数をもった制御系と、長期目標を担当としゆっくりと変化する制御変数をもった制御系という、異なる2つの制御系を実装したシステムは、高度に安定していると同時に柔軟であると言われている」(熊谷晋一郎, 2018.臨床心理学, 第18巻第2号.金剛出版.144)は、ホロニカル心理学の考え方と相似的です。

ホロニカル心理学のパラダイムであるホロニカル関係におけるミクロとマクロの関係も、ミクロはマクロに対して、より活動性に富み、自由度が高く振る舞い、逆にマクロはミクロに対して、より秩序的で安定的な傾向にあると考えています。

自己は、ミクロからマクロにわたる多層多次元な存在です。ミクロレベルの自己は、マクロレベルの自己に対して、より混沌的で、刻々変化しており、マクロレベルの自己は、より秩序的で安定的な傾向にあります。

たとえば、内的体感や身体感覚などのミクロレベルは、刻々変化しています。それに対して、時々刻々変化する内的体感や身体的感覚に随伴する気分のレベルでは、身体感覚レベルの変化よりは、より持続的安定的なゆるやかな変化となります。しかし、それ以上に、認知・思考レベルでは、もっとも安定的で秩序的になります。

こうしたホロニカル的特徴を重視するホロニカル・アプローチでは、対面の言語を中心とした心理社会的支援ばかりでなく、身体的なレベルを積極的に扱います。扱うといっても、直接身体に触れることはありません。

ホロニカル論的には、ある心的症状や心的問題をもった直接体験には、自己と世界の不一致に伴う身体感覚、気分、認知の次元が複雑に絡みあった悪循環パターンが包摂されていると考えています。そこで、自己と世界の不一致・一致に伴う刻々変化する非言語的な直接体験を徹底的に焦点化することによって、不一致が少しでも一致していくような変容を、できるだけ迅速かつ安定的に促進しようとします。また、頑固な心的症状や心的問題ほど、気分や認知レベルだけはなく、内的体感や身体感覚を含む変容を促進した方が、より確実で安定した変容を促進できると考えています。