一瞬・一瞬(8):実在する世界

自己と世界不一致・一致となる瞬間とは、映画フィルムの駒の如き静止したものとして「在るもの」ではなく、創造的点のようにして「成るもの」です。創造的な一瞬・一瞬は、時計に示される直線的時間の一瞬とは異なります。時計の一瞬とは、外我が思惟によって識別した時刻であり、直接体験レベルの瞬間を外我が観察対象として知的に判断した時間です。

一瞬が実在する世界です。一瞬・一瞬は、全体を構成する点のようなものではなく、他のすべてとの関係を包摂する唯一無二の極限の点といえます。瞬間が瞬間自身によって否定されるのです。

井筒俊彦が「コスモスとアンチコスモス」で論考した如く、新たな瞬間が創造されるような「念々起滅」の「創造不断」が瞬間です。

二度と繰り返されることなき実在する一瞬・一瞬において、自己は、世界との関係において自己自身を否定し、いかなる自己を自己決定するかに関して、絶対的な自由意志を有しているのです。

そして絶対的自由意志の無底の極限とは、そこからすべての生成消滅が無限に繰り返しされているゼロ・ポイント(絶対無、空)と考えられるのです。

 

<参考文献>

井筒俊彦全集第九巻,コスモスとアンチコスモス(1985-1989)、慶應義塾大学出版会株式会社発行(2015年)。