ABCモデル(7):陰極まって陽生ず(禅の詩偈)

ABCモデルにおける頑迷なA点は、自己と世界の出あい不一致による自己違和的苦悩が繰り返される無間地獄です。自己は、自己の欲求を充足することによって幸せになろうとします。しかしこうした生き方は他者と対立することもあり、自己にとっては他者が自己実現の妨げと感じます。このとき、他者の存在を一方的に理不尽と感じ、利己的に生き残ることに執着してしまうと、その我執が悪循環となって人間関係が醜悪化し、ますます他者との不一致を自ら引き起こし、ついに自力では視野狭窄的な自己自身から抜け出せなくなってしまいます。

しかし自力での脱出が不可能と自覚し、自己の非力を認め、これまでの利己的生き方を懺悔するとき、もしもA点の極限にいる自己自身を、なんらかのきっかけで適切な観察主体C点)から俯瞰できると、観察主体である自己は悪循環パターンから抜け出すことができます。すると、A点に埋没していた観察主体は、A点から解放され、A点以外の世界もあることに目覚めていくことができます。

B点(陰)の極みにこそ、A点(陽)に転じる“こころ”の働きが布置してくるといえるのです。