完全なるもの

人間は、複雑で曖昧模糊とした現象に対しても、現象を引き起こしている一般原理や一般法則を抽出する能力を持っています。しかし、そうした原理・法則は、常に不完全です。完全なる原理や法則を希求する理性は、一般原理や一般法則で説明できないものは、誤差やノイズとして排除しがちだからです。

完全なるものは、自らのうちにノイズや乱れなどを含むものでなくてはなりません。完全無欠なるものは、もはやすべての動きが静止した死の世界でしかなく、この世のものとは思えません。

論理的に厳密に説明可能な完全なる世界とは、人間の思考上考え出された観念でしかないといえます。

完全なるものは、秩序と無秩序、善と悪、快と不快など、対立矛盾するものを含むと考えられるのです。無秩序なるもの、悪なるもの、不快なるものを排除したところに、秩序があり、善なるもので、快なるものがあるとするのは、ただ考え出された理想に過ぎないと思われるのです。