一瞬・一瞬(9):過去と未来を包摂する一瞬

ホロニカル心理学では、瞬間を重視します。瞬間とは、「今・この刹那」実在する世界は、一瞬・一瞬ことであり、過去の記憶と未来の予感を包摂する生き生きとしたリアリティの一瞬のことです。

しかし重視する瞬間とは、過去から未来へと直線的連続的に流れる時計が刻む一瞬のことではありません。時計の刻む「時」は考え出された「時」です。ホロニカル心理学が重視する「瞬間・瞬間」は、曹洞宗の開祖道元のいう「有時の而今(にこん)」です。イスラム神秘主義のイブンヌ・ル・アラビーのいう「創造不断」の一瞬に相当します。

非連続的に連続する瞬間・瞬間においては、すべては自己と世界は無境界となり、「永遠の今」という全一体験になります。しかしながら、言葉を持つ人間に至ると、「無境界の永遠の今」が、本来は自己と世界が一致したものであるにもかかわらず、不一致となって、重々無尽に識別される世界となって立ち顕れてきます。

 

創造不断:井筒俊彦が、西洋の絶対的時空概念に対して、東洋的時間意識として明らかにした概念(井筒俊彦著.コスモスとアンチコスモス.井筒俊彦全集,第9巻.慶應義塾大学出版会.2015.pp106-185)