専門性より関係性の変容が大切な家庭訪問事業

「引きこもりや不登校状態にある子どもやその保護者対する伴走型の週1回レベルでの家庭訪問型支援は、専門家によるアウトリーチとは似て非なるものである」というのが、長く家庭訪問支援事業に携わってきての実感です。

アウトリーチでは、治療する人と治療を受ける人との関係が一貫して維持され、治療終了で完了となります。伴走型の家庭訪問型の心理社会的支援でも、初期の頃は、確かに支援する人と支援を受けるといった非対称的関係からスタートします。しかし、数ヶ月も経過すると、支援者と被支援者の関係が、「また会いたくなるような関係」に変容していきます。家族未満だけど、あかの他人でもない関係という意味で、「親密な他者」と概念化しています。しかも、こうした「専門性」よりも「関係性」の変容が、もっとも効果的な変容を促進するのです。

関係性の変容プロセスは、次の通りです。
①支援する人と支援を受ける人関係は、非対称的関係から始まる(非対称的な時期)。
②支援する人と支援を受ける人が、お互い様ともいえる互恵的関係になりだしていく時期(互恵関係時期)。
③支援者と被支援者の関係が、支援関係を越えて、お互いがまた会いたくなるような「親密な他者(家族と見知らぬ他人の中間領域の人)」関係になる時期(親密な他者関係時期)。
④支援の場が、ある生きづらさをめぐって、より生きやすい人生の道を共創的に発見・創造していくような関係になる時期(共創的関係の樹立期)。
⑤ 共創的な場の働きを被支援者が内在化し、両者の間に別れのときがくる時期(共創的支援の働きの内在化期)。

通常①~③までには、週1回の1時間から2時間前後の家庭訪問で、最低でも2~3ヶ月、ケースによっては、それ以上かかることも稀ではありません。その時間のかかる背景には、家庭訪問の対象となる家庭は、すでにこれまでの専門家を含む周囲の関係者に対する不信感や警戒心を強く抱いていることが多く、家庭訪問をする支援者にもそうした過去の心的外傷を投影し同一化していることが多いからです。そのため不信・警戒心をとり、お互いが「また会いたくなる関係になるまでの信頼関係づくりや修復のための時間が必要になるからです。

しかし、一度③の関係ができると、今後は、被支援者のよき代弁者となって、必要な時期に必要な支援を受けられるように関係機関を調整する力を家庭訪問機関の支援者が「親密な他者」として橋渡しの役割を担うことができます。「親密な他者」とは、信頼関係の創発関係の樹立を意味し、この先、今の生きづらさに対して、どんな支援をどのように受けるかの共創的関係の樹立を意味します。また被支援者のニーズを十分に把握した「親密な他者」によるコーディネートされた関係者のネットワークの場は、やがて被支援者に、共創的な場の作用が内在化され、被支援者の支援者からのよき自立を促進することができます。

伴走型の家庭訪問支援では、被支援者と「親密な他者」となる関係が成立してから、はじめて専門性をもった支援が有効になるのが実態といえます。「親密な他者」が不在の専門的支援や行政的な権威をバックにした支援は、これまでの支援に傷ついてしまっている被支援者にとっては、権威主義的な上から目線の支援にしか映っていないのが現実なのです。

現代社会は、被支援者にとって、地縁血縁によるコミュニティの著しい弱体化のもとで、身近な「親密な他者」が不在化した無縁社会化になってきているいう、実に深刻な事態になってきているのです。

 

※「家庭訪問の効果チェックリスト」「家庭訪問によって『また会いたくなる関係』を創り出すためのチェックリスト:~適切な「場」を当事者と共に創り出す秘訣~」も参考にしてください。