新しい臨床心理学の立場

人間を自然科学的な存在として、物理学、神経生理学、生物学などでもって、その機能的側面を要素還元主義的な因果論的な一般法則でもって記述することができます。が、こうした分析では、個性的な心理社会的存在としてのかけがえなき自己の全人格的価値的側面は表現できません。いくら因果論的な一般法則を合成したところで、ある人に対して直観的に感じる個性的な価値まで表現することはできません。

心理学、特に臨床心理学は、科学と科学の限界の両者の特徴を踏まえた上で考究することが大切だと思われます。因果論的な科学的態度の限界を、後者の主客合一の直観の立場から統一し、両者を“こころ”の不可分な二面的側面として統合的に了解していく必要があるのです。

“こころ”を外から分析することを重視する立場が科学的立場です。しかしこの立場は、分析の対象としようとする立場の違いだけ学派が生まれます。しかも分析された多様な要素をいくら総合しても“こころ”という全体にはなりません。

“こころ”は、感情、認知、行動、神経生理学的反応など、ある要素に分解し研究することはできますが、時計の部品のように解体した部分をいくら組み合わせても時計のようには、“こころ”はなりません。また、“こころ”を内から直観することを重視する立場があります。しかしこのとき、直観を表現するときの認識の枠組みの差異だけ学派の違いが生まれます。

このように心理学や臨床心理学は、何をどのように観察しようとするかによって、“こころ”の特性すら違った研究結果で出てくるというやっかいな問題を抱えているのです。

そこでホロニカル心理学では、まさに“こころ”に対して、どのような観察主体から何を観察対象としているのか、その組み合わせの差異がどんな異なる現象をもたらすのか、また観察主体が無となって観察対象と合一するとどのような心的世界となるのかを含め、観察主体と観察対象の組み合わせを自由無礙に捉え直す立場から心理学や臨床心理学を抜本的に見直そうとしています。