直接体験 (29):一切合切を包摂

旭岳

直接体験には、意識から無意識に至るものだけではなく、身体的なるものなど、生と死に関する一切合切の現象が包摂されています。

しかも直接体験という自己と世界の出あい不一致・一致創造不断の瞬間・瞬間は、生命力あふれる出来事そのものです。

心理療法では、「無意識の意識化」が大切とよく言われますが、意識化が言語を使った何かに関する識別である限り、非言語的で原始心像的なものを含む無意識の全体そのものを意識化することには必ず限界が伴います。むしろ大切なことは言語化よりも、非言語的なものを含む直接体験そのものの実感・自覚を確かなものとすることにあります。直接体験を自己照合の手がかりとした生き方が大切と思われるのです。「何となく」「何気なく」「ふと」「何か」といった曖昧模糊とした体験プロセスをまずは直観することが大切といえるのです。

瞬間・瞬間の体験プロセスとの触れあいを失った生き方は、虚空世界をただ知的に生きるだけの無味乾燥な人生になると思われるのです。

 

創造不断:井筒俊彦が、西洋の絶対的時空概念に対して、東洋的時間意識として明らかにした概念(井筒俊彦著.コスモスとアンチコスモス.井筒俊彦全集,第9巻.慶應義塾大学出版会.2015.pp106-185)