
医療保健領域と異なり、心理社会的支援の領域においては、「治癒」、あるいは「治療」という概念があまり使われません。その背景には、それなりの理由があると考えられます。「治癒」「治療」という概念をいかに定義するかによっても異なりますが、広辞苑による「病気や怪我が治ること」とすると、やはり医療領域での最も馴染みのある言葉といえます。
「治癒」「治療」に対して、福祉領域などで行われる心理社会的支援は、「心理社会的な生きづらさ」を扱います。そのため、生きづらさを扱う心理社会的支援行為は、「治癒」「治療」を中心とする医療行為とは異なる行為といえます。「治癒」「治療」が「問題や疾患が発症する前の状態に戻り回復すること」を意味するならば、生きづらさを扱う心理社会的支援においては、生きづらさを契機に、より新しい生き方の成長発達を促進するというニュアンスがより強くなります。
医学的な意味で戻る・回復を目的とするのではなく、むしろ苦悩を契機に、より生きやすいあり方を発見・創造する含みがあります。病気を契機に、これまでの自己、家族や組織など社会のあり方を変えていくのを支援するというニュアンスが、心理社会的支援にはあります。適応を図る以上に、より適切な自己及び世界の自己組織化を促進する面が心理社会的支援にはあります。医療による支援と心理社会的支援が異なるが故に、ケースによっては包括的支援が重要になります。