
レジリエンスは、「困難で脅威的な状況にもかかわらず、うまく適応する過程・能力・結果」と定義されています(Masten, Best, & Garmezy, 1990)。この定義は、従来の“原因を特定し除去する”という治療中心の視点から、困難を抱えたままでも「より生きやすい道」を発見・創造していく支援中心の視点へのパラダイムシフトを後押しします。
エビデンスに基づく医療・支援は重要ですが、そのエビデンスはレジリエンスの観点を含んでこそ実践的な意味を持ちます。逆境を生き抜くなかで獲得された知恵や技法は、過去に困難を経験した人だけでなく、現在進行形で困難に直面している人、そして支援する立場の人にも役立ちます。こうした知恵は、人びとの不安を和らげ、希望の見取り図を与え、社会に文化的財産として蓄積されていきます。統制された研究室のデータだけでは届かない、生活世界での実践知を取り込み、はじめて「生きたエビデンス」となるのです。
ホロニカル・アプローチは観察主体と観察対象の関係に注目します。従来の治療論が主として症状という“対象”の修正に向かいやすいのに対し、ホロニカル・アプローチは観察する主体のあり方も同時に見直します。被支援者と支援者が、自己と世界の関係に生じる生きづらさを丁寧に見極め、より生きやすい関係を共同的に創発していきます。その過程それ自体がレジリエンスの過程(process)であり、蓄積される力が能力(capacity)であり、そこから立ち現れる変化が結果(outcome)です。言い換えれば、ホロニカル・アプローチは、被支援者と支援者が共同研究的協働関係を構築してレジリエンスを育てる実践だといえます。
ただし、レジリエンスの強調には慎重さが不可欠です。「レジリエンスがない=我慢が足りない」という短絡的思考は、自己責任論の過剰を招き、苦しむ人に二重の負担を強いる危険があります。必要なのは、個人の力を賛美することではなく、環境・関係・文化の次元を含めて、レジリエンスが発現しやすい条件を整えることです。ホロニカル・アプローチは、個人内の問題に矮小化せず、関係の網の目(家族、学校、職場、地域、制度)の中でレジリエンスを共に育む道を探究します。
参考文献
・Masten, A. S., Best, K. M., & Garmezy, N. (1990). Resilience and development: Contributions from the study of children who overcome adversity. Development and Psychopathology, 2(4), 425–444.
・上野雄己・飯村周平・雨宮怜・嘉瀬貴祥(2016)「困難な状況からの回復や成長に対するアプローチ」『心理学評論』59(4).