小さな意味のある確実な変化

私たちは人生の中で、生きづらさや問題に直面すると、つい「一気に変わりたい」と願ってしまいます。しかし実際には、大きな変化を求めれば求めるほど、その大きさに圧倒され、かえって動けなくなってしまうことがあります。

自己と世界との関係は単純な一対一の関係ではありません。自己と自己自身との関係、家族との関係、職場との関係、地域社会との関係、歴史や文化との関係、自然との関係など、私たちは多層多次元にわたる世界との関係の中で生きています。

しかも、それらの関係は互いに影響し合いながら、しばしば自己相似的なパターンを形成します。

例えば、Aさんが職場で自信を失っているとします。すると職場で萎縮し、自分の意見が言えなくなります。意見を言えないため周囲との関係がぎこちなくなり、さらに自信を失います。家に帰っても疲れ果て、家族との会話が減ります。家族との距離感が生まれることで孤独感が増し、翌日の職場でもますます元気が出なくなります。

こうして、「意欲の低下」→「関係性の後退」→
「孤立感の増大」→「自信の喪失」→「さらなる意欲の低下」というパターンが、多層多次元にわたって繰り返されるようになります。

ホロニカル論では、より小さな部分に立ち顕れるパターンは全体のパターンを包摂し、また全体のパターンは部分を包摂していると考えます。Aさんの場合、より小さな出来事とより大きなな出来事とは相互に包摂し合いながら、悪循環を維持・強化していっていると考えられるのです。

こうした悪循環に陥ったとき、Aさんに限らず私たちは、人生全体を変えようとしがちです。しかし実際に変化を生み出すのは、むしろ小さな意味のある確実な変化です。

例えば、Aさんが毎朝五分だけ早く起きて窓を開けることを始めたとします。あるいは、一日一回だけ職場で誰かに挨拶をすることを決めたとします。あるいは、帰宅後に家族へ「今日どうだった?」と一言だけ尋ねてみたとします。周囲の人から見れば、一つひとつは取るに足らない変化に見えるかもしれません。しかし、その小さな変化は、自己と世界との関係に微細な揺らぎを確実に生み出します。挨拶が返ってくる。たわいのない会話が生まれる。気分がわずかに軽くなる。そうした小さな変化は、翌日の行動を変え、新たな関係を生み出していくことができるのです。

氷は0℃の手前までは見た目にほとんど変化しません。しかし分子レベルでは変化が蓄積されています。そしてある瞬間、氷は水へと相転移します。さらに加熱が続けば、水は蒸気へと姿を変えます。

人生の変容も、それとよく似ています。外から見れば何も変わっていないように見える時期があります。しかし、自己と世界との関係の深いところでは、小さな変化が少しずつ積み重なっています。そしてある時、突然視界が開けるように感じることがあります。今までできなかったことが自然にできるようになったり、苦しかった問題が以前ほど苦しく感じられなくなったりします。それは決して偶然の出来事ではありません。自己と世界との間で起きていた無数の小さな変化が、ある臨界点を超えた結果なのです。

ホロニカル心理学では、このような変容を自己組織化による創発現象として捉えます。