ホロニカル心理用語集

ホロニカル心理用語集

ホロニカル心理学は、心的症状や心的問題などの生きづらさを抱える人たちへの心的支援としてホロニカル・アプローチを研究していく中で、これまでの心理学概念のパラダイムから新しいパラダイムへのシフトへの必要性から自然に形成されてきました。
ここでは、ホロニカル心理学やホロニカル・アプローチで用いられる主要概念について説明します。

ホロニカル心理学で用いられる重要概念

1.こころの仕組みを理解する時
に用いられる主な概念
※ホロニカル心理学の心的構造論にあたります。

2.こころのあらわれ方を理解する時
に用いられる主な概念
※ホロニカル心理学の心的現象論にあたります。

3.発達の理解のための概念
※ホロニカル心理学の発達論にあたります。

4.ホロニカル・アプローチで活用される主な概念
※ホロニカル心理学の実戦論にあたります。

5.基礎資料

ABCモデル

1 ABCモデルとは
ホロニカル・アプローチの基本モデルとしてはABCモデルがある(図1)。これは自己と世界の不一致・一致を自由無礙な立場から俯瞰することができれば,自己と世界の一致に向けた自己の自己組織化を促すことができると捉えるホロニカル・アプローチのパラダイムをわかりやすく可視化したものである。

ABCモデルでは,自己と世界の不一致(自己違和的体験)をA点,自己と世界の一致(ホロニカル体験)をB点,俯瞰(協働)をC点として,A点とB点という相矛盾するものを同一のC点から適切に観察できるようになれば,自ずとB点に向かって自己組織化していくと考える。つまり,ホロニカル・アプローチのABCモデルとは,不一致・一致の俯瞰モデルといえる。

ABCモデルでは,安全感・安心感をもたらす自己と世界の一致の直接体験に伴うホロニカル体験と,被支援者が執着している自己違和的体験との間を「行ったり・来たり」する自己自身を適切な観察主体から観察することで,自己違和的体験に伴う不快感,警戒心,恐怖感,緊張感や否定的認知の軽減または緩和を試みる。具体的には,自己違和的体験に伴う神経生理学的な興奮の鎮静化を,陽性感情を伴うホロニカル体験の想起などを促しながら図る。また,できるだけ自己違和的体験ばかりでなく,ホロニカル体験を含むさまざまな直接体験の全体を適切な観察主体から俯瞰できるようになることを促進する。
陰性感情を随伴する自己違和的体験の興奮の鎮静化は,気分の安定化をもたらすことができる。さらに,気分の安定化は,自己違和的体験への執着からの脱却を促すばかりではなく,より創造的な人生に向かう自己の自己組織化をもたらすと考えられる。

なお,ABCモデルによる支援を行うにあたっては,自己違和的体験(A点),ホロニカル体験(B点),適切な観察主体(C点)を小物や描画によって可視化して実施するとより効果的である。

自己違和的体験(陰のホロニカル的存在)とは,自己と世界が不一致となることで経験する不快感・苦痛・苦悩・陰性感情の直接体験のことである。トラウマ体験を含む自己違和的体験の累積が苦悩を形成すると考えられる。不一致の自己違和的体験があまりに度重なったり,たとえ一過性でも生死に関わるような強烈な不一致の自己違和的体験があったりすると,観察主体は視野狭窄的になって,不一致の直接体験ばかりを観察対象としがちになる。その結果,観察主体と観察対象の関係は,執着性,反復強迫性を帯び,不快な気分の高まりが,混沌とした感じを増幅していくことになるとされる。

ホロ二カル体験(陽のホロニカル的存在)とは,忘我して,自己と世界が無境界となって,すべてをあるがままに一如的に体験しているときのことであり,観察主体が無となって観察対象と「一」になったときに得られる。そのため,「得よう」という「我の意識」が少しでも働いた瞬間,ホロニカル体験は得られなくなってしまう。意図,思考しようという観察主体の意識が少しでも働いた途端,観察主体と観察対象が分断されてしまう。ホロニカル体験は,むしろ事後的に,「さっきの体験が,ホロニカル体験といわれるようなものだったのか」と頓悟することが多い。ホロニカル体験時には,「ホロニカル体験」を意識する「我」が「無」となっているため,そのまっただ中にあっては,「無我夢中」「無心」「忘我奪魂」の体験があるとしかいえない。ホロニカル体験時には,人生の些細な苦悩が,自己と世界が全一となった感覚によって包まれ,至福へと変容する。こうしたホロニカル体験の累積が,自己と世界の不一致からくる生きづらさから人を守る基盤となる。

2 ABCモデルの基本的な考え方
ある出来事やある心的対象(気分などを含む)に対して視野狭窄的になり,観察主体の意識がある観察対象ばかりに執着し,悪循環に陥ってしまうことがある。ABCモデルでいうところのA点固着状態である。一般的には,A点に固執する被支援者にあっても,自己違和的体験が軽微な場合は,被支援者の観察主体の視点はC点を維持できている。このようにC点が確立されている事例においては,傾聴をベースとした受容共感的アプローチを行えば,一時的に被支援者の観察主体がA点に呑み込まれそうになったとしても,被支援者自らがC点やB点に移動することは可能である。

しかし,被支援者の自己違和的体験が重篤な場合や,観察主体が脆弱な場合は,受容共感的アプローチだけでは不十分である。支援者が被支援者の自己違和的な体験をただひたすら受容的に傾聴し続けていると,被支援者のA点に関する語りはエンドレスになるとともに,執着心を一層強化してしまうなど,かえって逆効果になってしまう危険性すらある。そのため,こうした場合には,主客合一となるホロニカル体験(B点)や適切な観察主体のポジション(C点)への移行をサポートする必要性が出てくる。

自己と世界が一致するB点のホロニカル体験への移行の促進の仕方には,①被支援者の過去においてすでに体得しているホロニカル体験の想起と増幅・拡充を図る方法,②面接の場という「今・ここ」における被支援者のホロニカル体験の体得を促す方法の2つの方法がある。

A点に執着的になることがあるとしても,適切な観察主体(C点)をある程度確立している被支援者などは,B点のホロニカル体験を豊富に持っていることが多く,①の方法に効果が見込めると考えられる。しかし,被支援者のホロニカル体験が不足している場合や,C点の観察主体が脆弱な場合は,②の方法である面接という場における「今・ここ」の被支援者のホロニカル体験の充実化を積極的に促進する必要がある。

いずれの場合でも,観察対象A点やB点と一定の心的距離を保ち,かつ,いつでもA点とB点との間を「行ったり・来たり」することを可能とするような「適切な観察主体」(C点)の確立・強化・補完が重要といえる。

3 ABCモデルの基本形
ABCモデルの基本形は,前述した図1の通りである。これはABCモデルを二次元的に表現したときの図である。

A点で観察主体が観察対象を,「層」としたとき、個人的無意識,家族的無意識,社会的文化的無意識,民族的無意識,人類的無意識、哺乳類的無意識、は虫類的・・・・量子的無意識といった「内的対象関係」が考えられる。また観察主体が観察対象を「次元」としたとき,個人的次元,家族的次元,社会的文化的次元,民族的次元,人類的次元,地球的次元、宇宙的次元といった「外的対象関係」が考えられる。

A点においては,観察主体と観察対象をめぐる多層性内や多次元性内の各位相間,あるいは層と次元間での位相間における不一致による悪循環が,自己違和的な直接体験として顕在化する。その一方で,B点においては,ホロニカル体験の瞬間,自己と世界は一致となり,その後,多層多次元間の位相の不一致の自発自展的な統合化が促進される。こうした特徴をもつA点とB点の「行ったり・来たり」が,自己と世界の一致に向けての適切な自己の自己組織化を促すと考えられる。
自己と世界の不一致による自己違和体験と,自己と世界の一致のホロニカル体験の往復は,一見対立するようにみえるものが,実は不可分一体であるとの実感・自覚をC点の立場に立つ観察主体にもたらしていく。このように瞬間・瞬間,不一致と一致を繰り返しながら,自己と世界の縁起的包摂関係(ホロニカル的関係)を実感・自覚していくことには,いくつかの段階があると考えられる。こうした発展仮説を可視化すると,以下の3つのモデルによって示すことができる。なお,各モデルの観点は,支援者自身の意識であり,その支援者の観点の意識の差異を示しているといえる。

 

4 ABCモデルの発展①モデルⅠ(個人モデル)

モデルⅠは,「個人モデル」である。C点の意識は,自己と世界の不一致・一致の繰り返しの直接体験を累積していった個人の次元を対象としている(図2)。自己の世界との不一致・一致の直接体験は,A点とB点を両極としながらも,多様多彩の組み合わせとして存在する。その多様性を円で表現したとき,観察主体と観察対象の個人的次元の関係は円錐モデルとなる。

 

 

②モデルⅡ(場所モデル)
次にモデルⅡは,「場所モデル」である(図3)。C点の意識は,

当事者や被支援者ばかりでなく,家庭,学校,施設,企業,ある特定の地域社会などにおける家族知人,関係者も支援対象とし,当事者や被支援者を含む場所そのものが適切な場所となるように意識されている。ホロニカル・アプローチでは,自己を場所的存在と捉えており,モデルⅡでは,場所も支援対象となる。対象となるのは,家族,組織,地域社会など,いろいろな場所の限定が考えられる。

モデルⅡでは,各々の自己にとって,自己と世界との不一致・一致が観察主体と観察対象の不一致・一致の現象として場所から立ち顕れてきていることを表現している。大円錐で表現されている領域内が,各自己が所属する社会的場所(家庭,学校,企業,地域社会など)に相当する。したがって,大円錐の頂点のC点は,超個的次元の観察主体といえる。しかし,この大円錐の頂点のC点の観察主体は,歴史的・社会文化的影響を受けたホロニカル主体(理)の影響を受けている。したがって大円錐内にある各自己のC点も,当然のこととして所属する社会の既知のホロニカル主体(理)の影響を受けていると考えられる。この段階では,支援者は,当事者および当事者を含む家族や関係者を支援対象としている。

③モデルⅢ(場モデル)
モデルⅢは,「場モデル」である(図4)。ここでは,場と場所的自己の不一致・一致レベルを扱う。

場モデルの段階では,生死の場との一致を求める真の自己の実感・自覚に向かう。すべての現象が,絶対無(空),あるいは存在と意識のゼロ・ポイントから生成消滅を繰り返しており,そのことが多様な観察主体と観察対象の不一致・一致の現象なっていることを実感・自覚していく段階である。絶対無(空)の実感・自覚が深まるにつれ、歴史的・社会文化的影響を受けたホロニカル主体(理)は、脱統合され、究極的には、「それ(IT)」となる。

場とは,過去を含み未来が開かれてくる「今・この瞬間」にすべての現象が生成消滅を繰り返しているところである。ホロニカル・アプローチでは,あらゆる現象が立ち顕れてくる究極の場は「絶対無」「空」であると想定している。モデルⅢは,支援の対象が,生死の場(絶対無)との一致を求めるトランスパーソナルな段階であり,支援者の意識は,当事者の場所の限定を離れて,生死の場そのものに共に生きる感覚になる。

ABCモデルの段階説では,ある場の時間空間的な限定によって,場所的自己ともいえる自己と世界が,不一致・一致を展開する。その結果,場所が異なると,異なる場所的自己と場所の不一致・一致が自発自展するが,究極的には,すべての場所がおいてある生死の場に,場所的自己は,その死によって,最終的には場に還元的に一致することを示している。