ユング心理学とホロニカル・アプローチ

分析心理学で有名なユングは、意識作用を外的心的事実としての意識と内的心的事実に方向づけることができるとし、外的心的諸機能として「感覚」「思考」「感情」「直観」があるとしました。そして、「感覚」と「直観」、「感情」と「思考」の双方の両立は難しく、どちらかが優越機能となる時は、他方が劣等機能となるとしました。

一方、内的心的諸機能としては、「記憶、主観的構成要素、興奮・滲入」があるとしました。これは外的心的世界を光とすると、影にあたる概念として扱われていています。しかも、それは自我の影としても意味づけられています。

ホロニカル・アプローチも意識の志向性を二つに分けます。意識の働き手の中心に「我」があるとみて、「外我」と「内我」に分けますが、ユングの区別とは異なります。

外我は、観察主体が観察対象をしっかりと区別し、観察対象となる自己および非自己化された世界を観察対象とする時に生起する時の意識の主体とします。

それに対して、内我は、自己と世界の出会いの直接体験をできるだけそのまま直覚しようとする時に生起する意識の主体とみています。

したがって、ユングの外的心的諸機能である直観、感覚とか感情は内的現実主体の機能とし、認知・思考など分別をする時に働く思考は専ら外我の機能と考えています。 また、ユングの心理学では、内的心的諸機能は、外的心的諸機能の影、自我の影(デーモニッシュなもの)という扱いです。ユング心理学のトーンは,影をとても恐れ・畏怖し、その扱いに慎重となり、その影の意識化が重要テーマになっています。ユングはやはり西洋人であり徹底的に物事の意識化を重視する意識中心主義の立場にあるといえます。

しかしホロニカル・アプローチでは、東洋的な視点、特に禅思想と相似的で、観察主体と観察対象が一致する無境界方向、すなわち無我の方向にあるホロニカル体験の直覚を重視し、不一致の時に出現するデーモニッシュなものの扱いも、意識化というよりもできるだけ不問に付したり、一旦、脇に置くことで、影の出現の沈静、消融を図ろうとします。

徹底的な現実主体による直接体験の徹底的意識化によって自己の安定化を図るのでなく、自己が自己自身の自己と世界の出会いの一致の直接体験に身を委ねられる道を目指しているといえます。