長期にわたって虐待を受けてきた人たちは、心理社会的支援者との間でも、過去に体験した対人関係の悪循環パターンを再現してしまいます。
ちょっとした支援者の発言や仕草にも過敏に反応してしまうのです。支援者の意図や意志には半ば関係なく、過去の加害者との対人関係を、支援者との関係にも投影して同一化し、過去と現在が融合的になり、「批判された」「見捨てられた」「否定された」と思い込み、支援者を過剰に恐れて萎縮したり、その憤怒を爆発させたり、逆に理想の救済者や保護者にあったごとく過度に依存的に振る舞ってしまうのです。しかもこうした反応は、人によっては、めまぐるしく変化し、一貫性に欠けます。その結果、支援者も、こうした再演性に無知のままでいると、知らずのうちに過去の対人関係の再演に巻き込まれてしまって、支援すること自体にそのうち疲れ果ててしまうことになりがちです。
しかし、こうした再演性は、当の本人もそうしたくてそうしているというよりも、苛酷な環境に長期にさらされてきたことによって、過覚醒、パニック発作、凍てつき反応などの神経・生理学的反応が条件反射的にスイッチ・オンしてしまうためと考えられます。
過酷な環境に長期に晒された人は、安全かつ安心できる環境を与えられても、すぐには対人関係に関する不安や恐怖を払拭できないのです。必ずしもといってよいほど、過去のパワーによる支配・被支配の対人パターンをあたかも条件反射のようにして、支援者との間でも再演してしまうのです。
支援者は、こうした再演性について、あらかじめ予備知識をもっことによって、再演性に遭遇しても過去の不適切な対人関係に自らが巻き込まれず、極力、適切でほどよい支援者として生き残ることが大切です。そうしたプロセスを経て、やっと新しい対人関係を再構築できるのです。
そのためにも支援者は、トラウマとなった過去の対人関係時の身体感覚と、「今・ここ」での支援者との安全で安心できる身体感覚との差異が区分ができるように、地道に支援し続ける必要があります。過去の感覚と現在の感覚の行ったり・来たりの中で、両者の差異を被支援者が実感・自覚できるように支援するのがポイントです。被支援者は、かつてのパワー(暴力・体罰・威圧・威嚇・罵声・否定等)によって支配された時の体験時と、愛と平等によって対応してくる支援者との明らかな体験の差異を実感・自覚を得て、はじめて変容できるのです。
しかしこうした予備知識や適切な対応法の研修や訓練を受けていない対人援助職の人が沢山います。その結果、人を救済したいという理想と志を持った実に多くの支援者が、被支援者の再演性に巻き込まれています。こうして、支援者自身がパワーゲームに巻き込まれ、加害者的立場を再現させられてしまったり、被支援者の思わぬ反応に傷つき、燃え尽きてしまって、心理社会的支援現場から離れていくという悲劇が繰り返されているのです。