直接体験(4):自分のものとする

被支援者自身が、直接体験を自分のものにすることができるような支援が大切です。

例えば、「上司に否定された」と肩を落とす被支援者がいたとします。この時、被支援者の言動を傾聴し支持的に反射するだけではなく、また何らかの解釈や分析を加えることもなく、<上司に否定されて、あなたはどう思い、どんな気分になって、その時の身体はどんな感じになったのですか?>と被支援者自身が、その時の直接体験を改めて実感・自覚できるように支援することが大切なのです。その時の体験プロセスを自分のものとして被支援者自身が想起しだすと、「自分でも、自分のことを甘いと思った」とうっすら涙を流しはじめたり、「上司は、あまりに理不尽だ」と拳を握りしめて憤怒し出したり、「怖くて何もいえず固まっていました」と身体を丸めたりしはじめるのです。こうした反応は、最初の肩を落とした被支援者の言動だけでは、支援者にはある意味で予測不可能な反応といえるのです。こうした直接体験を被支援者自身が直覚する以前に、支援者が不用意な解釈や分析をすると、被支援者自身の体験プロセスの直覚が阻害されてしまうのです。

被支援者にインパクトをもたらしたある場面における直接体験には、言葉にすることも困難な複雑な感情や身体感覚が含まれているのです。こうした非言語的な体験に被支援者自身が気づくことが、支援者による解釈や分析以上に大切になるのです。

また内的世界の内省、洞察や自己観察ばかりでなく、上司から叱責された場面を、小物などを使って映画のワンシーンのように再現し、被支援者と外的世界との関係を被支援者自らが俯瞰できるようになると、被支援者自身が、上司に対して、実際には、過剰なまでに服従的態度をとっていることに気づいたりすることが可能となります。

大切なことは、内的世界と外的世界が交錯するところに立ち顕れてくる直接体験を、被支援者自らが実感・自覚できるように支援することです。心理社会的支援の場では、被支援者が自らの直接体験を主体的に直覚し、それを自ら自己表現していく機会を、支援者が奪ってはならないのです。

直接体験を、主体的に自分のものとしていくことができる被支援者は、自ずと主体感を回復、強化させ、次第に、問題解決の主体者になっていくことができるのです。