A点時とB点時の身体感覚の差異の明確化によるC点強化

ABCモデルでいう自己と世界の一致の忘我脱魂的な一体感であるホロニカル体験(B点)は、その体験自体に意味があるのではなく、適切な観察主体(C点)から、人生にはB点があることを実感・自覚できるようになることが大切です。自己意識の発達が、第4段階以上にある場合は、B点の実感・自覚が比較的可能です。

しかし自己意識の発達が、第4段階から第3段階にすぐに陥ったり、第3段階から4段階への移行の節目で躓いている人がいますが、実は、こうした人の多くに、自己と世界の不一致の陰性気分や自己違和的体験であるA点への執拗な悪循環パターンの固着が発見できます。こうした人の場合は、A点からB点への移行が、一時的に可能となっても、適切な観察主体(C点)の成立自体が脆弱なため、B点における自己と世界の一致に伴う陽性の高揚感が醒めた途端、すぐにA点に反転埋没してしまいます。執拗な固着の背景には、ちょっとした刺激で神経生理学的ネットワークが過敏に反応してしまうことによる強迫的反復性が考えられます。

また、こうした段階にある被支援者が支援の中で、何か支援者と一致したというホロニカル体験(B点)を得ると、被支援者の意識は、支援者を自ら理想化した幻想的救済者イメージに一体化してしまい、自他関係は融合的になってしまいます。しかし幻想的理想化から醒めA点に戻った途端、被支援者と支援者の関係は切断され、被支援者は支援者から、あたかも見捨てられたかのような感覚となってしまい、支援者の価値は一気に切り下げられます。

このようにしてA点固着の強い第3段階にある人の場合は、自力でA点から抜け出ることが困難です。それが故に、被支援者は、再び支援者が、とても心地良いB点の世界に連れていってくれることを常に希求し続けます。しかし、それは現実には叶わぬ夢です。そのため支援者との共同研究的協働関係にあるC点の立場から、幻想的な理想の叶わぬ悲哀を受け入れることができるようになるまで(第4段階に移行)、B点を得ても、たちまちのうちにA点に墜落し続けることを繰り返してしまうのです。

このような事実を考慮するとき、A点固着の強い第3段階にある人の場合には、B点希求を満たすこと以上に、適切な共同研究的協働関係(C点)を樹立すること、そうした関係の被支援者への内在化が重要であることは明らかです。適切なC点から、ホロニカル体験を実感・自覚することが共感であって、C点なきホロニカル体験(B点)は、共感とは異なるのです。この区別がとても重要なのです。心理社会的支援が適切なものとなるためには、ホロニカル体験(B点)を積み重ねるだけではなく、C点強化がポイントとなるのです。C点から、B点の体験を想起しその増幅・拡充を図ったりする中でB点構築を図ることがポイントとなるのです。この時大切な作業があります。支援の場でB点の想起や構築が可能になった瞬間にA点執着時の身体感覚との「差異の明確化」を図ることです。自己違和的なA点固着時とホロニカル体験時のB点との身体感覚の差異の明確化です。このひと手間を付加するだけで、被支援者は事実上、C点の立場から、A点時とB点時の差異の実感・自覚を促すことが可能になるからです。「A点時とB点時の身体感覚の差異の明確化によるC点強化」がとても重要な作業となるのです。第4段階以上の人の場合は、この作業を自律的に行っていく力を持っていますが、第3段階の人の場合には、第4段階に移行か、移行を助ける環境が確保されるまで、根気よい支援が大切になると考えられるのです。