自己意識の発達(1)

自己と世界の出会いの直接体験は、自己の誕生から自己の一生を終えるまで、終始一貫して、常に刻々変化する気分に彩られています。

しかも自己意識の発達段階が変容していくにつれ、気分の直覚はもっぱら内我が担い、外我がもっぱら気分に左右されない認知機能を担うように機能分化していきます。

自己は、自己と世界の出会いに伴う場所の持つ一切合切の矛盾や統一された出来事を自己自身に映します。自己に映された一切合切の矛盾や統一された出来事は、瞬間・瞬間、神経生理的反応としての気分を自己の直接体験に引き起こさせます。自己意識の発達段階において観察主体となる外我が、まだ内外融合的な段階以下では、内我が抱く気分は、外我の認識の内容にも圧倒的な力を持ちます。その後、刻々変化する気分などの直覚の担い手としての内我が機能的に、まず先行して結実し、その後、外我が機能的に結実してきます。この外我は、ホロニカル主体(理)をよって外的世界を論理的に識別し知的な判断を下すようになります。

こうした内我の気分と外我の認知との関係をめぐる自己意識の発達を振り返る時、自己にとっては、自己意識の発達が早期の段階では、気分の変容が認知の変容に強い影響を与えています。外我が気分の直覚する内我を意識的に制御できるようになるのは、自己意識の第4段階以降です。したがって、心的症状や心的問題の変容を図ろうとする時、非合理な歪んだ自動思考などの認知の変容を図り、それから気分の変容を図る方法は、自己意識の発達段階が第4段階以上では可能であっても、第3段階以下では、自己変容を図ることは困難となります。第3段階以下の自己の変容を促進するためには、まずは気分の安定化や気分の変容を図ることを優先させることが、その後の認知や行動の変容の鍵を担っているといえます。

医療機関等では、投薬治療によって気分の変容を図り、その上で、認知行動療法によって自己の変容を図ろうと言う戦略を立てる傾向にあります。しかしそうした方法は長期にわたる投薬や多剤問題による副作用の弊害や、自然な身体感覚や気分の直覚の混迷化を招く上、服薬への依存や、脳の不可逆的反応を引き起こす危険を排除できません。もし投薬する以前に、投薬治療を開始することなく、気分の変容の安定化を図れるならば、まずはそちらの手続きを先行させることが適切な自己の変容を図る上でも効果あり、倫理的にも重要と考えられます。

ホロニカル・アプローチが、ABCモデルに基づいて様々なケースに対応する時、自己と世界の一致のホロニカル体験(B点)の構築が明らかな陽性の気分変容を促進します。しかし、その効果は短いものです。そこで、ポイントとなるのが、自己と世界の不一致の自己違和的体験時(A点)と、ホロニカル体験時(B点)、それぞれの時の身体感覚の差異の想起を求めることによって、B点時とA点時との身体感覚の差異の実感・自覚を促進です。