心理社会的支援におけるエビデンス(4)

医学的治療には、エビデンスが求められます。科学的根拠が明らかで、治療の再現性や普遍性が高く、妥当性や信頼性の高い対応であることが求められます。このことは精神療法(心理的治療)においても同じです。精神療法(心理治療)は、あらかじめ専門家たちによって合意された診断基準による診断と、一定のアルゴリズムをもったプログラム化された治療によって対応されることが大切です。しかもその治療効果は、実験室、事例研究だけではなく、複数のランダム比較に基づく研究によっても裏付けられている必要があります。

しかし、ホロニカル・アプローチを含む心理社会的支援のほとんどは、事例ごと、場ごとのオーダーメイド的対応です。しかも目的は治療ではなく、被支援者の抱える生きづらさが、少しでもより生きやすい人生となるのを支援することを目的としています。疾病や傷害を抱えた患者に対する症状軽減のための科学に基づく医学的治療と、生きづらさを抱えた被支援者の置かれた心理社会的文脈を考慮する心理社会的支援は、異なるパラダイムに基づく異なる行為なのです。

人間の心的苦悩は、医学的治療の対象となることもありますが、法律の視点、政治の視点、宗教の視点など、多様な心理社会的支援が考えられるのです。したがってもし多様な対応が求められる心的苦悩に対して、その多くを医療化し、医療領域だけに囲い込むようなことがあってはならないのです。