自由無礙の俯瞰(10):あるがままの俯瞰

自己自身をどのように観察しているかを含めて、よりメタレベルから「あるがままに俯瞰する」ことができれば適切な自己の自己組織化が可能となります。

観察主体としての自己(A)が、観察対象としての自己(B)をどのように認識し、どのように評価し、どのように判断しているか、それに対して観察対象となる自己(B)は、どのような感覚になり、どのような感情を抱き、どのような態度になるかなど、自己と自己自身という内的対象関係を、観察主体と観察対象との関係に変換して、メタレベルから俯瞰することが適切な自己の自己組織化を促進するのです。

このとき、観察主体となる自己(A)、観察対象となる自己(B)、メタレベルから俯瞰する自己(C)を、それぞれ小物を使ったりして外在化すると、あるがままの俯瞰がより促進されやすくなります。また、メタレベルの自己(C)の視座は、鳥瞰図的な視点に固定せず自由無礙に振る舞えることが重要です。

具体例をあげます。
①被支援者の観察主体Aは、観察対象となる被支援者Bを批判ばかりし、観察対象Bは、やる気を失っています。しかも、やる気のない観察対象Bを、観察主体Aは、さらに批判するため、観察対象Bは、無気力となって生きる意欲すら失っていきます。そこで、支援者は、A、Bを小物を使って外在化するなどして可視化し、観察主体Aと観察対象Bの悪循環パターン自体を、被支援者と支援者の共同研究的協働関係によるメタレベルから、被支援者があるがままに俯瞰できるように支援します。このとき、支援者自身はCからの俯瞰が、AにもBにも偏ることなく、評価的に判断することもなく、すべてをあるがままに包摂するように寄り添い続けることがとても大切です。被支援者自身が、AとBの悪循環パターンをあるがままに俯瞰できるようになったら、次のステップとしてAとBの関係の変容の促進に進みます。

②被支援者の観察主体Aは、観察対象となる被支援者Bよりも、周囲の人の評価や期待ばかりに気を遣い、観察対象Bを配慮する余裕がありません。また観察対象Bは、言葉にはできない空虚感を感じながらも、観察主体Aのしんどさを一番よく熟知しているだけに、何か欲動を抱くことがあっても耐え忍ぼうとするどころか欲動を抱くことに罪悪感すら抱いています。そのため観察対象Bは、観察主体Aを気遣うことはあっても、自らの複雑な気持ちを上手く表現できずにいます。そこで、支援者は、A、Bを、小物を使って外在化するなどして可視化し、観察主体Aと観察対象Bの悪循環パターン自体を、被支援者と支援者の共同研究的協働関係によるメタレベルから、被支援者があるがままに俯瞰できるように支援します。このとき、支援者自身はCからの俯瞰が、AにもBにも偏ることなく、評価的に判断することもなく、すべてをあるがままに包摂するように寄り添い続けることがとても大切です。被支援者自身が、AとBの悪循環パターンをあるがままに俯瞰できるようになったら、次のステップとしてAとBの関係の変容の促進に進みます。

③被支援者の観察主体Aと被支援者の観察対象Bは対立し、双方ともその立場を譲らないため常に緊張関係にあります。その結果、ときどき観察主体Aは、観察対象Bを無視した行動をとり、観察対象Bも観察主体Aを無視した行動をとります。そのため周囲の人は、被支援者の相反する言動に振り回されることになり、自己と他者(世界)の関係の悪化が、さらに観察主体Aと観察対象Bの対立を激化させてしまっています。そこで支援者は、観察主体Aと観察対象Bの悪循環パターンを、被支援者が、メタレベルからあるがままに俯瞰することができるように共同研究的協働を構築しながら、新たなメタレベルの観察主体Cからの俯瞰を支援します。このとき、支援者自身はCからの俯瞰が、AにもBにも偏ることなく、評価的に判断することもなく、すべてをあるがままに包摂するように寄り添い続けることがとても大切です。被支援者自身が、AとBの悪循環パターンをあるがままに俯瞰できるようになったら、次のステップとしてAとBの関係の変容の促進に進みます。

①~③以外にも、観察主体と観察対象の関係をめぐるあるがままの俯瞰には、無限の組み合わせが考えられます。また、自己と自己自身という内的対象だけではなく、自己と他者(世界)といったさまざまな外的対象関係の俯瞰もあり得ます。

ホロニカル・アプローチでは、多層多次元にわたる内的・外的対象関係をめぐって展開する観察主体と観察対象の関係を俯瞰する行為を、「自由無礙の俯瞰」と概念化しています。なお、自由無礙な俯瞰は、単独では困難を極めます。俯瞰においても単独では観察主体Aが、あるがままの俯瞰を阻害しやすいためです。そこで安全かつ安心してあるがままの自由無礙の俯瞰を可能とするためには、適切な他者による伴走が必要になります。いわゆる支援者です。被支援者をサポートする支援者は、被支援者との共同研究的協働者と言い換えられます。共同研究的協働とは、共に苦しみ共に歓びあう関係の共創(共苦共歓関係の共創)を意味します。治される人と治す人、指導される人と指導する人というパターナリズム的関係を脱統合して、人生を共に分かち合い、共に忍びあい、共に生きることを目指す関係です。その意味では、適切な支援者とは、被支援者のあるがままの俯瞰を可能とする場を創り出すことに専念する人ともいえます。

安全で安心して被支援者が内(外)的対象関係を俯瞰できるようになったならば、悪循環に陥っている対象関係が適切な対象関係になるような、適切な自己の自己組織化の促進が可能になります。

ホロニカル・アプローチでは、適切な自己の自己組織化を促進する技法として様々な技法が生まれました。「小物による外在化法」「場面再現法」「対話法」「心的イメージの増幅・拡充法」「能動的想像法」「ただ観察法」「エンパワ-メント法」「サイコモデル法」「超俯瞰法」「スケール化法」「無意識的行為の意識化法」「ホームシミュレーション法」「スポット法」「三点法」などです。これらの技法は必要に応じて組み合わされながら実施されます。

また様々な技法の基盤として理論化されたモデルが、「ABCモデル」です。支援の場において、支援者と被支援者の間に共同研究的共同関係が共創され、かつ、“こころ”の内外の観察のすべてが、安全で安心して可能となり、そのいずれの対象関係でも、あるがままの場によって包み込み込まれるとき、被支援者の観察主体と観察対象の関係は、自ずと不一致から一致する方向に向かって速やかに自己組織化しはじめていきます。そして、適切な支援の場が適切な自己の自己組織化を促進する保護的容器となって、やがて被支援者自身の適切な俯瞰する力となって内在化されていくことが可能になると考えています。