自己と世界(12):創造的世界の一要素としての自己

鈴木亨,1977:西田幾多郎の世界。勁草書房より抜粋

「創造的世界の創造的要素」(西田,1939a)としての自己にとって、自己と世界との関係は、西田幾多郎が概念化した絶対矛盾的自己同一の関係にあります。

自己は、かけがえのない唯一の個物として振る舞おうとする瞬間、もともと世界と一の関係にあった世界を自己にとって対象世界として非自己化します。自己と世界の一(不可分一体)の関係が破れるといえます。

しかし創造的世界は、自己を通して世界自身を自己表現しようとしながらも、自己に死を迫り、自己を世界に呑み込もうとします。そこで自己は世界と対立しながらも生き延びるために、新たな自己を自己組織化したり、新たな世界を求めて世界に働きかけます。

しかし、自己は、最終的には自らを創造し自らが働きかけた世界と一体となり絶対無となり、新たな世界の創造の源となります。

このように自己と世界は、一の関係にありながらも相矛盾し対立する関係にあるといえるのです。

 

参考文献

西田幾多郎(1939a).人間的存在.(上田閑照編(1989),自覚について他四;西田幾多郎哲学論集Ⅲ.岩波書店,p339.

西田幾多郎(1939b).絶対矛盾的自己同一.(上田閑照編(1989),自覚について他四;西田幾多郎哲学論集Ⅲ.岩波書店.