内的な体験を十全に体験するとは

カウンセリングや心理療法が、内的な体験を十分に体験することが大切というトーンで語られるとき、内的世界を十全に体験すること以外にも、自己が無我となって外的世界と主客合一の体験の一瞬があることが忘却されてはなりません。内的体験が外的世界から切り離された自己内に閉じてしまうと、自己の底は、無限の底となって魑魅魍魎の住まう暗黒世界になってしまいます。内的世界を外的世界から切り離してはならないのです。

ホロニカル心理学では、内的世界の底は、そのまま即外的世界に開かれていると考えています。しかし、自己と世界は、常に一致していることはなく、むしろ瞬間・瞬間絶え間なく不一致と一致を繰り返していると考えられます。自己と世界が不一致となる瞬間とは、自己が内的世界となって意識され、世界が外的世界になって、切り離されて意識される瞬間といえます。しかし自己と世界が切断される寸前は、自己と世界が無境界のままの直接体験のみがあるといえるのです。自己と世界は、不一致・一致を、自己の底の直接体において絶えまなく繰り返しているのです。

したがって、カウンセリングや心理療法が内的体験を十全に体験することを重視するとは、自己と世界の不一致・一致を繰り返している直接体験を、あるがままに体験し、不一致と一致の繰り返しに、ほんの少しでも自己と世界が一致する生き方の指針を発見・創造することが大切と考えられるのです。

自己も世界も絶対無(空)から創造された絶対有と考えられます。自己もその死によって絶対有を創造する源の絶対無になると思われます。それだけに、自己の無底の絶対無(空)から、自己にとって外的世界と内的世界がせめぎあうその瞬間・瞬間こそが、純粋な直接体験であり、その直接体験を十全に体験することが重要といえるのです。