“こころ”は(64):即心即空・心即是空

心と世界の関係を対立的に捉える考え方があります。

こうした考え方の背景には、自己と世界を対立的に捉え、かつ心の作用を自己内とし、自己外を世界と考えているためと思われます。心を自己内の働きと限定すれば、確かに心と世界の関係は対立的関係になります。

心の働きを自己内に限定する場合にもいろいろな考え方があります。自己内の心の働きを無意識を含む意識の働きと考える立場があります。そうした意識活動は、すべて脳が作りだしている活動にすぎないという考え方もあります。こうした心と脳との関係では、脳を動かしているのが心にほかならないという考え方もあります。

実は、ホロニカル心理学では、こうした心の捉え方の差異も“こころ”の働きと捉えています。そのため、通常の心と区別するために、“こころ”と表記しています。

ホロニカル心理学では、自己と世界も、心と身も、精神も物質も絶対無(空)から創造不断に生成消滅する出来事に対して人間が、多層多次元にわたって、ある一定の現象に対して歴史的社会的に識別してきて名を与えた出来事と考えています。「自己」「世界」「心」「脳」という概念もその典型例です。しかし、あらゆる出来事に名を与えることをやめ、すべてをあるがままに感じとれば、一切合切の出来事は、 まさに”こころ”の出来事と気づきます。ホロニカル心理学では、“こころ”とは、一切合切の現象が立ち顕れてくる絶対無(空)の場と考えているわけです。

絶対無(空)の場が、一切合切を創り出し、一切合切を包んでいるといえるのです。

こうした捉え方は、仏教の即心即仏や心即是仏と相似的です。

ただし、ホロニカル心理学では、仏とはせず、絶対無(空)としていますから、即心即空、心即是空となります。

“こころ”の捉え方の差異は、実は、生き方の差異を根底から生み出す重要なテーマですが、これまでの心理学の世界では、あまりに多義性を含む”こころ“に関する直接の議論を避けてきた印象を持ちます。

 

創造不断:井筒俊彦が、西洋の絶対的時空概念に対して、東洋的時間意識として明らかにした概念(井筒俊彦著.コスモスとアンチコスモス.井筒俊彦全集,第9巻.慶應義塾大学出版会.2015.pp106-185)