新しい相談

内的世界と外的世界を共に扱うホロニカル・アプローチは、カウンセリング(セラピーを含む)やソーシャルワークの実践や他領域の智慧を活かし、かつその智慧の実践的統合化を目指す新しい「相談行為」です。

生きづらさを抱えた人に対する支援現場では、多機関・多職種の連携の必要が強調されます。しかし、そうした強調の背景には、多機関・多職種間の交流不足の問題だけではなく、支援方針をめぐる見解の相違、主導権争い、責任分担や利害をめぐる対立があるためでもあります。特に資格制度の発展と拡充は、支援行為の細分化と専門化を強化してきた一方で、統合的観点の弱体化を招いてしまったといえます。当事者の立場からすれば、専門性の高い多機関・多職種による協働を求めるのは当然の権利です。が、しかしそれが、実はとても困難なのです。それぞれの専門資格は、他の資格との差別化を図る中で、その権益を拡大してきた歴史があります。ある資格が国家資格化したり、社会的に認知されればされるほど、養成課程におけるカリキュラム編成をめぐる利害や専門行為の境界をめぐる利害対立の確執を産み出してきたのです。その結果、ある機関やある職種による支援行為が、多機関や他の職種による支援行為の境界を侵入したと受け取られてしまったり、その逆に、他の機関や他の職種が行うべきと思う支援を何か押しつけられたかのように感じるということが、専門職種が増加すればするほど増えてきているのです。

昨今では、生きづらさを抱えた当事者が、多機関・多職種の専門家の見解の相違や利害対立の渦に巻き込まれ混乱していくという事例まで散見されるようになってきたのです。多機関・多職種の増加による確執化の増大が、心理社会的支援現場のカオス化を加速させているのです。

生きづらさを抱えている人からすれば、錯綜する意見の整理を共にし、その都度、ベストの自己決定を支援してくれるような支援者が側にいて欲しい状況になりだしているのです。悩みと喜びを共にしながら伴走してくれる「信頼のおける親密な他者」が支援者として側にいて欲しいのです。専門性以前の関係性の問題に支援者は立ち返る必要があります。

ホロニカル・アプローチは、こうした心理社会的支援現場の混乱とともに明らかになってきた多層多次元にわたって錯綜する問題を、整理・統合していく伴走型の相談行為として自発自展してきました。それ故これまでの心理社会的支援とは異なり、特定の理論や特定の技法や特定の政治思想・宗教にも基盤を置かない「新しい相談行為」といえるのです。

心理社会的支援現場で、専門的意見が錯綜し対立する主な要因は、それぞれの専門性を統合的に活かす基盤となるパラダイムがないことによります。しかし、ホロニカル・アプローチでは、専門性の差異とは、ある現象に対する観察主体と観察対象の組み合わせの差異という観点からさらに俯瞰すれば、統一的に活用し直すことができると考えます。ある現象は、観察主体と観察対象の組み合わせによる専門性の差異の分だけ、あたかも多層多次元な現象の如くなっていますが、もともと同じ現象の多面的側面が明らかになっただけともいえるのです。あるひとつの現象が、多層多次元の観点から見ることができるということなのです。

特に“こころ”は機械でないため、物を対象とした因果論的なパラダイムでは対処不可能です。“こころ”の問題は、専門性の違いによって、その背景に多層多次元の要因を指摘することが可能です。それだけに支援の現場では、多層多次元にわたって説明可能な出来事に対して、専門性の差異による理解の違いを超えて、それぞれの見解の相互関係を統合的立場から了解していく姿勢が求められるのです。食欲減退、不眠、気力の低下、集中困難、体重の減少や絶望感の背景には、内的世界から外的世界にいたる多層多次元な問題が絡み合っているのです。神経生理学的なテーマから、性格傾向、家族関係、仕事の状況、社会保障の有無、倫理観や道徳観などに至る複雑な問題が絡みあっているのです。さまざまな要因が考えられる複雑な現象を要素に分析するだけではなく、複雑な全体をそのままに統合的な立場から了解し、異なる要因に注目する専門的対応が、多層多次元にわたる“こころ”の現象に、いかなる影響を与えるかを俯瞰的統合的立場から再度確かめていく姿勢が求められているのです。生きづらさを抱えた人が、少しでも生きやすくなる人生の道を俯瞰的統合的立場から発見・創造していくことをサポートするような心理社会的支援が求められはじめているのです。