トラッキング

ホロニカル・アプローチでは、支援者と被支援者のやりとりが、互いの内的対象関係や外的対象にいかなる変化をもたらしているかを、ABCモデルでいうC点から共創的にトラッキングしていく作業を重視します。

支援者と被支援者との間がいかなるときに不一致となり、いかなるときに一致するかについて、あるがままに共同注意を向け、その体験プロセスを誠実かつ思いやりを持って互いに開示しあっていくのです。

このとき陽性の感情を伴う体験プロセスは開示しやすいものですが、陰性の感情を伴う体験プロセスをいかに開示しあっていけるかがポイントになります。

陰性の感情とは不一致体験に伴う気持ちの開示ですから、開示をしても両者の信頼関係の絆が破壊されないという思いが根底にあることが必要になります。相手を破壊するための開示と、破壊したくなるような気持ちになることの開示の区別が大切になるのです。

特に被支援者の陰性感情の開示に対しては、開示の持つ肯定的意味を深めていくような支援者の態度が必要であり、そのための創意工夫が支援者には求められます。

陰性の感情の体験プロセスとは、不一致を一致に転換する修復のための最大の創造的契機でもあるのです。

しかしこうした創意工夫が不可能な場合には、再構築による修復を断念することがそれ以上の悪化防止のために必要になることもあり得ます。被支援者が支援者に対して、あまりに幻想的な救済者を希求し、被支援者の絶望に対応できず、共創的なトラッキングが破綻する場合です。

なお、陽性の体験プロセスは開示すれば良いというものでもありません。こちらの陽性感情の開示が、相手にとっても同じような陽性の体験プロセスであったかどうかは、相手が体験プロセスを開示するまではわからないからです。陽性感情は押し売りするものではなく、陽性感情を共有できない場合にあっても、常に相手へのおもいやりや配慮が大切となるのです。もしも陽性感情に差異があることが明らかになったとしたら、差異感に対する共創的トラッキングが大切になります。

こうした被支援者の抱えるある生きづらさの問題を巡って、被支援者と支援者が相互尊重に基づく共創的な問題解決の体験自体が、被支援者の自己自身に内在化されていくことが、被支援者の適切な自己の自己組織化を促進していくと考えられるのです。