
架空事例:いろいろな類似事例を組み合わせて創作した事例です。ノンフィクションフィクションと概念化しています。
過去のあまりに辛い体験が原因で、過去の記憶や感覚が断片化したり、記憶自体が凍結されてしまうことがあります。こうした状態からの回復のためには、安全で安心できる支援の場で、被支援者自らが主体的に物事を自己決定でき、実行することのできるような体験の積み重ねが不可欠です。記憶の切り離しや凍結によって封じ込められていた生命のエネルギーそのものを、破壊のためではなく、創造のために活用でできるようにするのです。
たとえば、トラウマ体験時に圧倒的なパワーによって制限されてしまっていた身体の動きを、安全で安心できる支援の場で再現し、実行し達成することにより、恐怖から隔離された感覚と解放とともに、未実行だった行為の実行を達成するような支援です。
20歳の青年Xの事例を紹介します。
彼は面接中、時折、右腕を顔の前に持っていく動作を無意識のうちにします。一見、チック症状のようにカウンセラーには見えましたが、面接が深まるにつれて、その動作は、高校時代の級友との関係に話題が少しでも触れた途端、必ず立ち現れることが観察されるようになりました。どうもチック症状に思われた動作は、Xが過去に受けた陰湿ないじめと関連しており、Xがいじめられた際、X自身が思わず顔面を殴られるのを防ぐために咄嗟にとっていた身構えの仕草が、高校時代の学校生活の話題が刺激となっって、条件反射的に現れている悲劇的出来事であることが明らかになってきたのです。
そこでカウンセラーは、Xがその時に達成できなかった行動の遂行を促進します。具体的には、カウンセターが高校時代のいじめっ子の役を再現し、クッションを使ってXを使ってに強い圧迫を加えます。すると、Xは、咄嗟に身構える仕草を条件反射的に再現します。そこでカウンセラーは、Xが、いじめられたときに、本来やり返したかった動作を今・ここで実行するように促します。しかし、Xは、どうしても咄嗟に両手で身構える動作になってしまい、かつ身体を硬直させてしまいます。しかし、カウンセラーは何度もXを励ましながらも、無理矢理クッションをXに押し付け続けていきます。すると、Xは、ついに「やめろ! やめろ! やめてくれ」と涙目になり絶叫しながらクッションを力強く押し返すことができました。
このセッション以降、Xが3年苦しみ続けた身構の動作は、ほとんど消失していきました。
トラウマを克服するためには、未実行の行為を遂行することが、適切な自己の自己組織化につながる場合があります。このようなアプローチは、トラウマによって失われた感覚や記憶を取り戻し、自己の再生を促すための重要なステップとなります。