トラウマの扱い方(20):意識野を広げる

ABCモデルの基本形

トラウマの記憶に強く固執する人々は、ABCモデルにおけるA点に意識が集中しすぎてしまいます。これは、適切な観察主体であるC点から見れば、不適切な観察主体がA点の出来事から適切な観察距離を保つことができず、A点に完全に没頭してしまっている状態と言えます。

意識野が狭くなり、A点ばかりに意識されてしまう状態といえます。過覚醒状態のときには、トラウマ記憶を想起するちょっとした刺激に過敏になってしまっています。聴覚、触覚、視覚、味覚、嗅覚、内臓感覚など、トラウマ体験を想起させる刺激ばかりに選択的に過敏に反応してしまいます。その逆の場合もあります。麻痺や凍結反応などの低覚醒状態に陥ってしまって、「今・ここ」における意味のある刺激を受け取れなくなってしまいます。いずれの場合も、観察主体はA点に埋没してしまって、視野狭窄状態に陥ってしまっています。

A点に固着してしまうと、もはや人生にはB点もなけれな、A点とB点の間の様々な体験世界があるということすら剥奪されてしまいます。

こうした課題に対処するためには、まずは適切な観察主体C点の布置が大切になります。しかしながら、被支援者ひとりでは、適切な観察主体の確保はとても困難ですから、そこには伴走する支援者が必要になります。被支援者と支援者がA点の出来事に対して、無批判・無評価・無解釈の立場から協働関係を構築して、ほどよい距離をもった適切な観察主体となるC点から共創的俯瞰が可能になるのです。

被支援者がA点固着状態のときの心拍数、呼吸、血流、瞳孔の開き具合、身体部位の緊張や弛緩具合、内臓感覚や運動感覚などの微細な感覚が、無批判・無評価・無解釈の立場から「ただ観察」によって追跡し続けていくと、C点から微細に変容していく体験プロセスを共有していくことが大切になります。

強い陰性感情を附随する自己違和的体験を、そのまま適切な距離をもったC点から支援者と被支援者がほどよい覚醒領域から俯瞰できるとき、A点の出来事をほどよい覚醒領域内でもって耐え抜くことが可能になるとともに、A点以外の被支援者の出来事まで視野を拡大することが可能になるのです。