
心理社会的支援で重視される「共感」の捉え方には、大きくわけて二種類あります。一つは、他者の内的体験に対して身体的共鳴を必要としない支援者による認知的な推察や想像に基づく場合です。二つ目は、被支援者と支援者との間(場)における身体的共鳴現象から創発される直観的了解による場合です。この2つの共感は、全く異なる支援態度につながります。
認知的共感では、支援者は、被支援者という他者理解を因果論的に分析した結果を統合しながら理解することに努めます。それに対して、直観的共感では、できるだけ先入観を持たず非因果論的に通底する相似的体験に対する共振な了解を重視します。
認知的共感の支援者は、「共感」を「するもの」「すべきもの」と捉えます。直観的共感の支援者は、「共感」を「生まれてくるもの」「創発されてくるもの」と捉えます。
ホロニカル心理学では、こうした認知的共感を外我による鏡映的共感、身体的共鳴による共感を内我による共鳴的共感として区別しています。自己と他者の一致の瞬間に、情動的な直観的了解をもたらす共鳴的共感が創発されます。しかし、共鳴的共感を支援者や被支援者が意識した途端、共鳴関係は破れて不一致となります。すると今度は、外我による鏡映的共感が必要になると考えています。支援者と被支援者の不一致・一致をめぐる共鳴と鏡映の絶え間のない繰り返しを通じて、お互いが自己理解と他者理解を深めながら、お互いに、それぞれの自己の適切な自己組織化していくことが可能になると考えています。
また、内我による他者との身体的共鳴性が弱い被支援者に対しては、被支援者の自己と世界の不一致・一致の直接体験の直覚を支援者が徹底的に身体的共鳴性を手がかりにしながら増幅・拡充し、被支援者の内我の統合性の促進をサポートします。逆に、あまりに被支援者が支援者との身体的共鳴性に過度に反応して一体化を希求してくるときには、外我による鏡映的共感によって、身体的共鳴による反応を抑制しながら、適切な自他分離の促進を図ります。
こうした共感作業の協働的関係の構築を通じて、お互いが、それぞれの自己の適切な自己を自己組織化を絶え間なく促進していくと考えています。こうした二つの共感作業の蓄積によって、お互いが相手の言動の背景にある心的状態を適切に推察することのできる力を育むことが大切になります。このことは、安全や安心を脅かされた時に人が求めるアタッチメントに基づく適切な愛着関係の土台を形成していくことにつながっていきます。
クライエント中心療法の創始者のロジャースの「クライエントの内的世界を、あたかも自分のものであるかのように感じ取り、しかもこの『あたかも…、のように(as If)』という性格を失わないこと」(Rogers,1957)という態度と相似的といえます。
不一致と一致の非連続的連続の絶え間なき反復は、他者もまた自己と同じようなかけがえなき生きた身体を持った他者であるという他者理解を深化させます。裏を返せば、自他関係が共感不全にある場合には、適切な自己組織化も他者理解も疎外されます。
<参考文献> Rogers CR (1957) The necessary and sufficient conditions of therapeutic personality change. J.consult. Psychol 21 (2): 95-103.