落ち込みの「どつぼ」からの抜け出し方

ABCモデルの基本形

どうしても落ち込んでしまうとき、私たちは落ち込んでいる自分自身を何とかしようとします。しかし、その努力をすればするほど、かえって落ち込みの「どつぼ」にはまり込み、抜け出せなくなることがあります。

そんなとき、どつぼから抜け出す一つの方法があります。

それは逆説的ですが、「どうにもならない自分」「どうにもできない自分」「落ち込んでいる自分」を何とか変えようとするのではなく、そのまま観察し続けることです。

そして、その中で絶えず移り変わる気分や身体感覚、思考の動きを、あるがままに観察し続けます。

それが「ただ観察する」という俯瞰です。

俯瞰とは、無批判・無解釈・無評価の立場から、自分自身の体験を見つめることです。

心理学では「脱中心化」や「メタ認知」と呼ばれることがありますが、ホロニカル心理学ではこれを「俯瞰」と呼んでいます。

ホロニカル心理学のABCモデルでいえば、落ち込みや苦しさによって固着したA点の状態を、観察主体であるC点から俯瞰する営みです。

簡単そうに見えますが、実際には、あるがままの観察ができるようになるまでに、多くの場合、修練のようなプロセスを必要とします。

そのため、批判したり、解釈したり、評価したりする観察主体C点そのものを小物などで外在化し、さらに無批判・無解釈・無評価の立場から俯瞰します。

それでも難しい場合には、俯瞰できない観察主体をさらに外在化し、その観察主体を俯瞰します。

この作業を繰り返していくと、多くの場合、数回の往還の中で、観察主体をどこまでも対象化できてしまうという無限後退的な構造が実感・自覚され、批判や解釈、評価への固着が自然に緩んでいきます。

しかし、このプロセスは一人で行うことが難しい場合も少なくありません。そのため、共に俯瞰作業に同伴してくれる信頼できる他者の存在が大切になります。

そして、どつぼ状態の自分をあるがままに共創的に俯瞰できた瞬間、私たちは今この場において、それまでの悪循環パターンから一歩抜け出すことが可能になります。

ただし、自力で俯瞰のポジションを維持できない場合には注意が必要です。

A点の背後に、観察主体C点を圧倒するほどの強いトラウマ記憶や未処理の感情エネルギーが隠蔽され、不可視化されていることがあります。

そのような場合には、無理に一人で取り組もうとせず、トラウマ支援に熟達したセラピストの力を借りることも大切です。

大切なのは、どうにもならない自分を責めることでも、無理に励ますことでも、無理に前向きになろうとすることでもありません。

ただ、「今、自分は落ち込んでいるのだな」と、そのまま受け止めることです。

すると不思議なことに、それまでA点の出来事だけに向いていた意識が、少しずつA点以外の出来事にも開かれていきます。

どつぼ状態の苦悩が深かった人ほど、窓の外の景色や風の音、人との何気ない会話、目の前の小さな出来事など、それまで見えていなかった世界が、生き生きとした生命の輝きを伴って立ち顕れてくることがあります。

その瞬間こそが、新たな自己と世界との出あいを生み出す第一歩となるのです。

ホロニカル心理学では、苦しみを消すことそのものよりも、苦しみを含めた自己と世界との関係性を俯瞰し、その変容の可能性を見いだしていくことを大切にしています。

ただし、俯瞰という営みを神秘化したり、特別な能力として神格化したりすることには注意が必要です。

俯瞰は誰もが本来的にもっている働きですが、それを安定して活用できるようになるためには、座禅にも通じる修練や、自己と世界について探究し続ける学問的姿勢が求められます。

ホロニカル心理学においては、そのための実践体系がホロニカル・アプローチです。また、対人支援者にとっては、教育的自己分析もまた、その重要な営みの一つであるといえるでしょう。