ホロニカル・アプローチの場面再現法のポイント

箱庭療法用の小物と間取り図を活用した場面再現法

ホロニカル・アプローチでよく用いられる技法の一つである場面再現法によって、問題が悪化する契機となった出来事を振り返る際には、いくつかの重要なポイントがあります。

場面再現法は、単に過去の出来事を思い出し、その原因を探るための方法ではありません。支援のという現在において、過去の出来事をできるだけ具体的に再び立ち顕れさせ、そのとき、自己と世界との出あい不一致がどこで、どのように生起していたのかを、支援者と被支援者が共同研究的に明らかにしながら、未来に向かって、より生きやすくなる道を発見・創造するための方法です。

そのためには、まず、その場面において立ち顕れていた内的・外的なさまざまな現象を、できるだけ無批判・無評価・無解釈の立場から俯瞰的に振り返ります。そのときの気分、浮かんでいた考え、身体感覚、自分自身の振る舞い、相手の表情や態度、相手から言われたこと、周囲の人々の動き、音や光、場所の様子、場の雰囲気など、その出来事を構成していたものを、できるだけ丁寧に、あるがままに再現していきます。あたかも、その場のさまざまな位置にカメラや各種のセンサーが置かれていたかのように、一つの視点だけに固定されることなく、できるだけ自由自在に、多方向から出来事を観察していきます。

その際に重要なのは、「なぜそうしたのか」「誰が悪かったのか」「本当はどうすべきだったのか」と、原因や善悪、正誤を急いで決めないことです。まずは、その瞬間、自己・他者・世界との関係のなかで、何がどのように立ち顕れていたのかを、可能な限りあるがままに捉えていきます。

こうした振り返りを可能にするためには、被支援者が安心して自由に出来事を再現できるよう、支援者と被支援者との間に共同研究的協働関係が形成されていることが前提となります。支援者が、あらかじめ答えを知っている専門家として出来事を説明したり解釈したりするのではなく、被支援者とともに、「あのとき、そこで何が起きていたのだろう」と、その場に立ち顕れていた出来事を一緒に探索していく姿勢が求められるのです。

一見すると簡単なことのようですが、実際には必ずしも容易ではありません。なぜなら、支援者自身もまた、その場を構成している一人だからです。被支援者の言葉や振る舞いによって、支援者自身の怒り、不安、焦り、心配、同情、違和感など、さまざまな感情や考えが揺り動かされます。また、身体が緊張したり、何かを言いたくなったり、早く問題を解決したくなったりすることも否定できません。その結果、支援者自身が知らず知らずのうちに出来事を評価したり解釈したり、一定の方向へ被支援者を導こうとしたりして、無批判・無評価・無解釈の姿勢を保つことが難しくなってしまうのです。

そのようなとき、支援者に必要なのは、自らに生じた感情や考えを抑え込んだり、なくそうとしたりすることではありません。むしろ、「いま、自分はあるがままに俯瞰できていない」という状態そのものを、さらにあるがままに俯瞰していくことが大切になります。すなわち、支援者自身が、あるがままに俯瞰できていないこと自体もまた一つの出来事として、自ら俯瞰するのです。

ホロニカル・アプローチでは、被支援者だけを観察の対象とするのではありません。被支援者との関係のなかで支援者自身に生じている感情、思考、身体感覚、衝動、振る舞いもまた、その場を構成している重要な出来事として捉えます。

したがって、場面再現法では、被支援者の内面だけを詳しく調べるのではなく、被支援者、支援者、相手、周囲の人々、場所や状況などを相互に切り離すことなく、一つの場に生起していた多層多次元な出来事として捉えていきます。そして、その出来事を観察主体の位置から俯瞰していくなかで、「どのような出来事が自己違和感を生じさせたのか」「その瞬間、自己と世界との不一致はどのように立ち顕れたのか」「その不一致のなかで、自分や相手はどのように反応していたのか」といったことが、支援の場において、次第に共創的に再構成され、共有されるようになっていきます。

ここで大切なのは、再現された出来事を唯一の正解として理解することではありません。場面を繰り返し丁寧に再現しながら、これまで一つの意味や解釈に固定されていた出来事を、より多層多次元的で多義的な意味をもつものとして再構成していくことです。そうすることによって、それまで見えていなかった関係や新しい意味、新しい選択肢が自然に立ち顕れてくる可能性がはじめて出てくるのです。

このように、場面再現法とは、過去の出来事を単に再生する技法ではありません。それは、現在の自己と世界との出あいの場において、過去の出来事を改めて立ち顕れさせ、そこに生起していた自己と世界との不一致を、支援者と被支援者が共同研究的に俯瞰し、その理解を一致させていくなかで、新しい意味や方向性を発見・創造していく方法であるといえます。このプロセスは、「不一致の一致による創造」と呼ぶことができます。

なお、支援者自身が、自己違和感や評価・解釈への傾きを十分に俯瞰することが難しい場合には、ホロニカル・アプローチにもとづく教育的自己分析やスーパービジョンを受けることも有効です。支援者自身が、自らの内に生じる出来事をあるがままに観察できる力を育てていくことは、被支援者との間に、より自由で安全な共同研究の場を形成していくことにもつながるからです。