
ホロニカル心理学が目指すのは、苦悩や生きづらさを契機として、より生きやすく生きるための方向性を「今・ここ」から発見・創造していく道筋を明らかにすることです。
この歩みでは、苦悩の軽減や症状・問題の改善を大切にしつつ、困難を抱える中でも、より創造的な生の方向性が開かれてくることを重視します。生きづらさを手がかりとして、自己と世界との関係を問い直し、少しでも生きやすくなる道を問い究め続けていく歩みです。
この歩みは、自己の適切な自己組織化を促すとともに、世界の自己組織化にもつながっていきます。ここでいう自己組織化とは、さまざまな関わりの中から、新たなまとまりや秩序が自ずと生まれてくることです。自己の感じ方や行動の変化に加え、対話や協働を通して、人間関係や生活環境にも新たなあり方が生まれていくことが、この過程に含まれます。
ホロニカル心理学では、自己と世界は、もともと互いに切り離しては成り立たない「相即不離」の関係にあると捉えています。自己は世界との関係の中で生まれ、世界もまた、自己との出あいの中で立ち顕れてきます。自己と世界は、互いに関わり合いながら、一瞬・一瞬、共に生成・消滅し、変容し続けていると考えられるのです。
ホロニカル心理学では、自己と世界との出あいにおいて生起する不一致と一致の直接体験を、無批判・無評価・無解釈の姿勢で、自由無礙に俯瞰することを重視します。それは、特定の固定的な見方に縛られず、今まさに変化し続けている体験の全体を見渡すことです。安全・安心な場に支えられて、そのような俯瞰が開かれるとき、自己と世界との関係における固着が緩み、新たな生き方や関係が生まれる可能性が開かれます。
ここでいう一致とは、自己と世界との隔たりがほどけ、両者が無理なく出あっている体験を指します。自己と世界の関係が無境界となる瞬間です。このとき、我は、いかなる固定的な枠組みをももたない、無我の境位にあります。しかし、たとえ一瞬、無我の境位になったとしても、日々の生活では、新たな違いや葛藤によって、その境位は即座に破れます。それゆえに、大切なのは、不一致と一致の体験を柔軟に行き来しながら、その都度、より生きやすい関係を創造していくことです。不一致の体験もまた、これまで気づかなかった自己や世界のあり方に触れる契機となり得ます。
この過程には、自己のあり方の変容とともに、自己を取り巻く関係や環境への働きかけが含まれます。必要な支援や環境調整を通して、自己と世界の双方に変化が生まれることを大切にします。
この見方を支えているのが、自己と世界を固定的に隔てる境界のない「無自性の絶対無の場(空)」をめぐる仮説です。「無自性」とは、何ものも、他との関係から独立した固定的な実体としては成り立たないことを意味します。この絶対無の場は、自己を含むあらゆる出来事が、幾重にも関わり合いながら、一瞬・一瞬、生成・消滅している、その働きそのものとも捉えられます。
自己と世界は、この絶対無の場において、互いに切り離されることなく分化し、出あっていると考えます。自己が世界を包摂し、同時に世界もまた自己を包摂するという、相互に包み込み合う関係を、ホロニカルな関係と呼びます。
したがって、自己と世界の「ホロニカル関係」は、本来切り離されていない両者のつながりが、体験として開かれ直し、具体的な生き方や関係の中に、新たな形で実現されていくことを意味します。それは、自己と世界が共に変容し、その都度、新たな関係を生成していく過程なのです。
言い換えれば、生きづらさは、自己と世界との不一致に苦しむ現象であると同時に、その関係を問い直し、新たな一致へと向かう契機にもなり得ます。安全・安心な関係と必要な支援に支えられる中で、苦悩の体験が、より生きやすく生きるための創造の入口となる可能性を、ホロニカル心理学は大切にするのです。