自己組織化(3):複雑性の科学のキーワード

カオス

複雑系の理論生物学者のスチャアート・A・カウフマンは、秩序相とカオス相の狭間の領域といわれる「カオスの縁」と「選択」が自己組織化の現象をもたらすと指摘しました。

この複雑系の科学の視点は、自己の自己組織化にも当てはめることができるように思われます。自己が自己組織化するためには、相矛盾する働きが自己に働かなければならないと考えられるのです。その一つは、自己の自己組織の秩序の維持であり、他方は既存の自己組織の秩序を破壊し混沌に向かっていこうとする働きです。

「秩序でもあり混沌でもある」「秩序でもなく混沌でもない」など、秩序と混沌が絶対的に相矛盾する“ゆらぎ”の領域に、自己組織化するものが生成消滅を繰り返すと複雑系の科学では考えます。

近代科学は、“ゆらぎ”をもたらすものを、秩序の平衡的安定を乱す、「ノイズ」「攪乱」「誤差」という形で扱ってきました。こうしたパラダイムは、精神医学や異常心理学にも影響してきました。すなわち障害・疾病を、統計学的に処理された社会的標準基準からの逸脱の程度によって、見極めてきたのです。その結果、当事者の意志や選択を無視する形で、障害や疾病は、社会適応が悪い人という隠蔽された社会的スティグマを、根深く形成する要因になってきたと、考えられるのです。しかしながら、複雑系の科学や哲学では、「ノイズ」「攪乱」「誤差」が、システム全体に重要な情報をもち、新しい秩序形成(異変を含む)の引き金になることを積極的に研究しています。

こうした複雑系の科学のパラダイムは、ホロニカル心理学が、苦悩(心的症状・心的問題)を新しい自己や世界の自己組織化の契機にすると語るときの観点と相似的です。自己も一歩選択を間違えれば、混沌(カオス)に向かいます。しかし、選択次第では、新しい自己組織化の契機になることもあり得るだけに、ただ単に社会的適応を求めるのではなく、自己主体的な自己組織化を促進する選択や意志決定をサポートすることが適切な心理・社会的支援といえるのではないでしょうか。