(注:下記の文章は2021.3.8に公開したものに2026.7.22に加筆・修正を加えたものです)
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公認心理師、臨床心理士、社会福祉士、精神保健福祉士など、心理社会的支援に関わる資格制度は年々充実し、医療・教育・産業・福祉など多様な領域で、多職種による連携やチーム支援も広がっています。しかし、その一方で、生きづらさを抱える人は、専門家の増加以上の速度で増え続けているようにも思われます。
少なくとも、この数十年の取り組みを振り返ると、個人が抱える苦悩に新たな名称を与えることで、新たな「問題」が次々と生み出され、その問題名を付与する専門家と、その問題名を与えられる当事者の双方が増え続けてきたように感じられます。もちろん、診断や概念化には重要な意義があります。しかし、それだけで当事者の生きづらさが十分に軽減されてきたとは、必ずしも言い難いのではないでしょうか。
また、近年は支援体制の拡充とは別の課題も顕在化しています。
それは、当事者に継続的に伴走する支援者が期待するほど増えているわけではなく、むしろ「より適切な専門家」を紹介することを主な役割とする支援者が増えているように感じられることです。当事者の立場から見れば、それが専門家同士による「たらい回し」と受け止められてしまうことも少なくありません。
心理社会的支援の現場で数多くの事例に携わってきた経験からすると、今後の課題として、少なくとも次のような点が挙げられると思われます。
① 「親密な他者」の不在と、悩みの専門家への囲い込み
身近なキーパーソンとなる「親密な他者」が減少する一方で、“こころ”の問題が専門家へと囲い込まれる傾向が強まっています。効果的な支援のためには、週1回、少なくとも隔週1回程度の継続した関係を維持できる「親密な他者」として伴走できる支援者の養成が求められます。
② 血縁・地縁の希薄化と社会的孤立への対応
血縁・地縁の弱まりによって、人間関係の無縁化・疎遠化が進んでいます。当事者を中心に、「親密な他者」が支えながら、地域のコミュニティやソーシャルネットワークを共に築いていく「場づくり」の視点が必要です。
③ 支援パラダイムの転換
傾聴やカウンセリングマインドは重要です。しかし、それだけでは生活上の具体的課題に十分対応できない場面もあります。当事者と支援者が協働しながら問題解決を共創していく支援パラダイムへの転換が求められます。
④ 個人病理化・医療化への偏重の見直し
心理社会的問題を個人の病理へ還元し、医療モデルに過度に依存する傾向には限界があります。多くの問題は診察室や面接室だけで生じているわけではなく、生活の場で起きています。医療との連携を大切にしながらも、多領域が協働する社会包括的支援モデルを構築することが急務です。
⑤ 当事者参加型ネットワークへの転換
当事者の十分な理解や同意がないまま他機関へのリファーや情報共有が行われることがあります。支援者同士だけで情報を共有するのではなく、当事者自身が主体的に参加するネットワークづくりへ転換していくことが必要です。
⑥ 守秘義務の徹底と情報共有の再構築
関係機関の連携が進む一方で、個人情報の共有が常態化する危険性もあります。自傷・他害や虐待など法令で定められた例外を除き、守秘義務を厳格に運用するとともに、多機関で情報共有を行う際には、その都度、当事者の理解と同意を得ることを原則とすべきです。また、当事者参加型の連携を積極的に推進していくことも重要です。
⑦ 長期多剤処方への対応
精神科・心療内科の一部では、過剰診断や多剤大量処方による長期服薬の問題も指摘されています。医療との対立ではなく、減薬を視野に入れた心理社会的支援との協働ネットワークを構築していくことが望まれます。
20世紀から現在までの心理社会的支援を振り返ると、これまでの対策は専門家中心に偏り、当事者の主体性を十分に生かすことのできない支援になっていた側面もあったのではないでしょうか。
その結果、生きづらさを抱える人々が、本来もっている問題解決力や、自ら周囲とつながりながら生きていく力を、知らず知らずのうちに弱めてしまった可能性も否定できません。
これからの時代に求められるのは、専門家中心の支援から、当事者を中心に据えた社会包括的支援システムへの転換です。そして、その中核となるのは、日常生活の中で継続的に伴走できる「親密な他者(キーパーソン)」の存在であり、そのような支援者を地域社会の中で育てていくことではないかと考えます。