他者の存在に目覚める

他者を自分と同じような意志をもった独立した存在として実感・自覚できるようになるためには、自己意識の発達を必要とします。

まず、独立した他者の存在の理解の前段階として、自分の意志だけではコントロールのできない(世界)に生きていることを自己自身が体感することが必要になります。自己が、自己を包みつつ自己を超えた場である世界を体感する中で、同じ場を媒介として生きている他者の存在に次第に目覚めていくことが、はじめて可能になるのです。

場(世界)という媒介がなければ、自己と他者をつなぐものすらなく、すべてはバラバラとなり、自己も他者もひとつのまとまった存在とはなりえません。したがって自己がまだ場(世界)を体感できない段階では、自己自身も、他者も、すべては断片的な出来事が非連続的に繰り返されている状態といえます。自己意識の発達の第1段階は、そうした状態と想像されます。

また自己自身がまとまりのあるひとつの身体的自己として自己自身に実感できるようになっても、自己と場(世界)が一致するときには、自己があたかも全世界であり、他者を含み自己以外のすべては自己の世界の所有物のように体感されるか、自己と場(世界)の間に少しでも不一致があれば、他者を含む世界は、自己に対立し自己を脅かす迫害的な異物のように実感される段階があります。自己意識の発達の第2段階です。

そのうち自分の思い通りになるときの他者や場(世界)を幻想的に理想化し、思い通りにならないときは、すべて他者を含む場(世界)が悪く、自分は悪くないという誇大的で万能的な自己になる段階があります。自己意識の発達の第3段階です。

自己が場(世界)を媒介としてお互い唯一無二の他者同士として存在しているということを実感・自覚できるようになるためには、決して自分の思うようにはならない絶対的他の場所としての世界と他者の存在に目覚める必要があるのです。こうしたことを身をもって実感・自覚できるようになっていく自己意識の発達段階は第4段階以降と考えられるのです。

人によっては、場(世界)を媒介とした他者の独立した存在を実感・自覚できるようになるためには、相当の時間が必要になることがあります。