共時性

因果論的説明が困難な偶然の一致の現象に対して、精神科医で心理学者のユング(1875-1961)は共時性(synchronicity)という概念を持って考察しました。

わたしたち現代人は、ニュートン力学に代表される因果論的科学的思考にどっぷりと浸かっています。そのため共時性現象などと聞くと、あたかも非科学的な神秘主義か、原始的なアニミズム的魔術的思考か、あるいはオカルト的思考ではないかと思ってしまいます。

しかし、宇宙は一瞬たりとも静止することなく、生成消滅を繰り返す創造不断の世界です。しかも一瞬・一瞬の刹那に一切合切のすべてが包摂されていながらも、同じ現象など二度となき無常の世界です。ニュートン力学的な因果論的法則があてはまる観察対象の世界でも、量子論的な究極的ミクロレベルや宇宙の果てなど究極的マクロレベルまで観察対象を無限にすれば、すべての現象が他の多のすべての現象と重々無尽の網目状のネットワークを形成していることを感得出来ます。

こうした連関性への直観的了解は、実は東洋的な観想や禅定の修行の中では、よく知られてきた現象でしたが、西洋論理による科学的実証となると、まだまだとても難しい現象といえます。

このように考えてくるとき、ユングのいう共時性とは、自己自身に自己と世界の共振関係が布置(コンストレーション)し、自己(部分)と世界(全体)の関係がすべてホロニカル関係(縁起的包摂関係)にあることに覚醒し、「あたかも偶然の一致に見える現象も、実は、なるべくしてなる自然な出来事」として自己によって直観される出来事といえます。

共時性とは、科学的実証が困難ですが、自己にとって、内界と外界がピタリと同期する現象であり、誰にでも実感・自覚が可能なものと思われます。

 

※井筒俊彦(1986).創造不断;東洋的時間意識の元型.In:「井筒俊彦全集第9巻,2015.慶應義塾大学,pp106-185.