不適切な絆への対応 

子ども虐待などの事例では、子どもと保護者の関係が周囲から見れば、とても保護者の不適切な養育の結果として不適切な絆によって結びついているように見えます。しかし、たとえ不適切に周囲から見えたとしても絆は絆です。

そのため子どもは、たとえ保護者が理不尽な躾を長期に渡ってし続けていたとしても、さまざまな自己防衛手段を使って、保護者から見捨てられまいと必死に耐えようとします。

その結果、支援者が子どもの意思を無視して、子どもを不適切な養育をする保護者のいる家庭から保護し分離を図ろうとすると、子どもは永遠に保護者を失う強烈な喪失感への恐怖や、これまで愛着対象となっていた保護者を裏切ったことに対する強烈な罪悪感に苛まれることもあります。こうした見捨てられ不安に伴う激情の嵐から生き残るためには、嵐が鎮まるのを共にする子どもにとっての保護者自身が態度を変えないと、保護者に代わる愛着対象が移行対象として必要になります。

また移行対象となる支援者は、子どもが生活環境の激変に伴う嵐を生き抜くために、子どもが、ずっとひとりで耐え抜いてきた力をレジリエンスとして積極的に支持しながら、新たな激変に伴う苦痛をわかち合いながら、新しい絆づくりに向かって子どもを支え抜く覚悟が求められます。

実は、加害者とされた保護者への対応も同じです。ほとんどの場合、保護者もまた適切な愛着対象を持つことなく大人になっており、適切な絆がどのようなものか体験的には身についていない場合がほとんどです。そのため家庭分離は、保護者失格の烙印であり、修復不可能という周囲からの宣告として受け、失格者としての絶望と、子どもを奪われた憤怒に揺れ続けます。

それだけに家庭分離を図るとしても、原則は、保護者への監護能力欠如に対する処罰や監視ではなく、適切な絆の再形成のためや適切な愛着修復が目的となることが重要となります。

一時的な分離を契機として、子どもだけではなく、保護者にとっても適切な愛着形成の移行対象となる支援者や子ども家庭支援を目的と保護的ネットワークの保障が考えられるならば、子どもを家庭から分離することなく、地域で支えていくことも再び可能になると考えられるのです。ホロニカル・アプローチは、保護的ネットワークを可能とするづくりを重視しています。

一時保護後の適切な移行対象の確保や愛着関係の修復を図る支援策なき、注目喚起による助言指導では、再び一時保護を余儀なくされるような悲劇を引き起こすことになることは明らかといえるのです。