子ども虐待(4):統合的アプローチの必要性

自己は、多層多次元的な存在です。どの層の内的世界の変容であろうと、外的世界の次元の変容に影響し、その逆も成立しています。

しかし、アカデミズムの世界では、専門性の差異を強調しすぎるあまり、内的世界と外的世界の両者を区別した専門性を追求しがちです。しかし心理社会的支援の現場では、内的世界も外的世界も共に扱う統合化アプローチによる対応が必要ですから、アカデミズムの世界との乖離があります。

特に、子ども虐待のように問題が多層多次元にわたって錯綜する事例への対応においては、統合的対応が欠かせません。しかし専門性が分断されているため、実際には統合的対応を可能とするパラダイムの構築が必要です。子ども虐待に関係する他機関・多職種の異文化交流にも比喩できる連携は実際には上手くいきません。他機関・多職種での対応において、通底する統合的パラダイムを欠けば、連携は表面的レベルでしか可能にならず、深層レベルでは、お互いの価値観や対応の仕方の差異に対する不信や疑問ばかりが顕在化し、対立や確執を激化させてしまうことすらあるのが実態です。実際、今日の子ども虐待への対応現場は野戦病院化してきているのが現実であり、戦場に駆り出される対人援助に関わる関係者の多くが、取り返しのつかない身心にわたる傷を負い戦線から離脱していっているのです。

大切なことは、子ども個人に対してであろうと家族に対してであろうと、被支援者の内的世界や外的世界のいずれにも偏った対応にならず、常に内的世界と外的世界との関係の不可分性に配慮できる人材を育成することにあります。

子ども虐待への対応現場では、次のような支援者が、より適切で効果的な対応ができていると実感しています。

・加害者・被害者の抱える多層多次元な問題に対して、特定の層や次元の問題に拘泥せず、ごく自然に内的世界と外的世界の縁起的な相互包摂的関係(ホロニカル関係)を感じ取り、わずかな適切な変容を増幅・拡充できる人。
・多層多次元にわたる問題が錯綜する中にあっても、まずは現実的に達成見込みのある具体的問題から、加害者・被害者を問わず共創的態度で適切な変容を支援できる人。
・心理的ケアの担当者とソーシャルワーカーがペアを組むなど、異なる観点をもった支援者と共同研究的協働関係を構築することを希求する人。
・個別面接や並行面接を漫然と繰り返すのではなく、訪問、電話相談、家族合同面接(家族療法)、当事者参加型のチーム対応など、事例のニーズと実態に応じて、もっとも適切な支援体制の構造化を目指す人。
・問題が起きた時だけ対応するのではなく、日頃から、地縁血縁による社会的絆が脆弱化する現実を直視し、まず自らが、「また逢いたくなるような親密な他者」となれるような努力を惜しまない人。
・権威主義的態度、治療的態度ではなく、人を傷つける行為に対しては毅然たる態度をとりつつも、具体的問題を外在化・可視化し、問題を共有し、問題解決に向かって、共同研究的協働関係(共創的関係)の構築を志向する人。
・所属する機関内や機関外であろうと、チーム対応のできる人。
・因果論的な原因分析に時間とエネルギーを費やすよりも、問題の縁起的観点を実感・自覚し、まずは具体的問題解決策を問題を抱える当事者と共創できる人。