
我々の自己と世界は、一瞬・一瞬に不一致と一致を繰り返し、これが我々の直接体験となります。
しかし、何かの要因によって自己が直接体験を実感できなくなることがあります。その結果、生き生きとした内面的な自己感覚を失い、自己が物質的な存在のように感じられ、自己同一性の感覚を持つことが困難になります。
“こころ”の中に深刻なトラウマを抱えている場合などが典型例です。深刻なトラウマ体験に遭遇しながら、トラウマ体験となった記憶をもった断片的自己が全体的自己から切り離されてしまいます。しかし、もしも過去のトラウマ体験を想起するような出来事に出あってしまうと、意識の制御などお構いなく激情を伴った断片的自己が瞬間湯沸かしのように噴出することになります。しかも当の本人や周囲の人には、原因不明の突発的な出来事に映ります。
こうした場合、自己の適切な組織化を達成するためには、過去のトラウマ記憶が随伴する直接体験に圧倒されることなく、「今・ここ」という安全かつ安心できる場において、過去においては自分の体験として全体的自己に統合しきれなかった体験を、再度、実感・自覚できることが重要です。適切な心理社会的支援とは、過去の体験と今・ここでの体験の差異を被支援者が実感・自覚しながら適切な自己の自己組織化を促進する行為と考えられます。